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弁護士コラム Column

相続放棄

2012年07月03日
津事務所  弁護士 森下 達

最近相続放棄に関する相談を何件か受けましたので,よくある相談例についてお話しさせていただきます。相談例1「先日夫が亡くなって遺品を整理していたら,金融機関からの借入金が3000万円ほどあることが判明しました。夫の預金は,ほとんどありません。不動産も持っていません。夫の借金は私が返していかなければならないのでしょうか。」相続人は,相続開始の時から,被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条)。一切の権利義務とは,プラスの財産(上記の例では預金)だけでなくマイナスの財産(上記の例では借入金)も含みます。そして,被相続人の配偶者は常に相続人となります(民法890条)。
そのため,上記相談例での相談者は,原則として,相続人となり,3000万円の借入金についても相続することになります(これを単純承認といいます)。
しかし,家庭裁判所において相続放棄という手続きをとれば,被相続人のプラスの財産を相続することはできなくなりますが,マイナスの財産についても相続を回避することができます(民法938条・939条)。相談例2「相続放棄をしたら私の手元に残るお金が一切なくなってしまうのですが,何とかならないでしょうか。夫の生命保険や死亡退職金ももらえないのでしょうか。」相続放棄は相続人となることを回避する手続きですので,相続とは関係のない財産(被相続人の遺産に含まれない財産)を取得することには影響を及ぼしません。
生命保険は遺産に含まれない財産として典型的なものです。受取人として被相続人以外の者が指定されている場合には,その者の固有の財産として,相続と関係なく,取得することができます。
上記の相談例で,被相続人の生命保険の受取人に被相続人の配偶者が指定されている場合には,相続放棄をしたとしても,生命保険を受け取ることができます。但し,受取人として被相続人本人が指定されている場合には,生命保険も相続人の財産(遺産)となりますので注意が必要です。
また,死亡退職金については,会社の給与規定に「遺族を受取人」とする旨規定されていることが多いかと思います。さらに遺族の定義として,第一順位に配偶者,第二順位に子第三順位に…など,民法の相続に関する規定とは別個の定義がされていることがあります。この様な場合には,死亡退職金も,受取人として指定された者の固有の財産となると解され,相続放棄をしたとしても,受取人において取得することができます。以上のように,被相続人の死亡後に被相続人に借金があることが判明した場合でも,相続放棄によって,相続人が借金を背負うことを回避することができます。
しかし,相続放棄は,被相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月(この期間を熟慮期間と言います)以内にしなければなりませんので,注意が必要です(民法915条1項)。但し,3ヶ月では判断がつかないという場合には,家庭裁判所に熟慮期間の伸長を求めることができます。
相続放棄をするか否かは,相続人の今後にとって極めて大きな影響を及ぼします。
相続放棄に関して,少しでも迷うことがありましたら,一度当事務所までご相談下さい。

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