浮気相手に慰謝料を請求する時の注意点を弁護士が解説
2024年09月20日
名古屋丸の内本部事務所
弁護士 清水 良恵
はじめに
配偶者の不貞行為(浮気)が発覚し、慰謝料請求を請求するというのは、一見シンプルで簡単なようにも思えます。
しかし、そもそも法的に慰謝料が請求できる事案なのか、どういった手順・手続で請求していけばいいのかなど、実際に行動に移そうと思うと判断に悩む点が多々生じると思います。
本記事では、不貞行為に基づく慰謝料請求を考えている方に向けて、ポイントとなる部分を網羅的に解説したいと思います。
なお、この記事において「浮気相手に慰謝料請求をする」とは、一般的な意味の「浮気」ではなく、法的に「不貞」と定義される行為があったケースを想定しており、「不貞相手に慰謝料請求をする」のと同じ意味で使用しますので注意してください。
不貞と浮気の違いについては、下記URLの記事を参照して下さい。
浮気相手に慰謝料を請求するために必要な事
①不貞行為の事実
不貞行為によって慰謝料請求できるのは、不貞行為が夫婦貞操を守る義務に違反する行為=民法上の不法行為に当たるからです。したがって、不貞行為があったという事実が大前提となります。
そして、「不貞行為」とは、法律の世界では、結婚している男女において、配偶者以外の人と性的関係をもつことに限定されて解釈されています。
性的関係をもったこととは、肉体関係があったということであり、肉体関係があったか否かがポイントとなります。
②権利侵害
慰謝料請求の根拠は、その行為によって被害者の権利・利益の侵害があるからです。
不貞行為によって侵害される権利・利益とは、判例上「婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益」と考えられています。
したがって、平たく言うと、不貞行為によって夫婦の婚姻生活の平和を壊されたということが必要となり、例えば、夫婦関係が既に破綻していることが明らかな夫婦の一方が、夫婦関係の破綻後に不貞行為に及んでも、慰謝料請求が認められない場合があります。
③故意・過失
不貞行為に基づく慰謝料請求は、民法上の不法行為責任を根拠にしているので、その行為が被害者の権利侵害にあたることについて故意・過失=認識していたこと・認識できたことが必要となります。
特に、不貞相手に慰謝料請求する場合は、例えば不貞相手自身が「既婚者であると知っていた」「既婚者であることを知り得る状況だった」ということは必要になります。
法的な観点では、以上3つのポイントが重要と考えます。
慰謝料請求に必要な証拠
上記①②③を裏付ける証拠が必要となりますが、まずは①不貞行為の事実を裏付ける証拠が不可欠でしょう。
不貞行為現場の写真・動画は直接的な証拠になりますが、そこまでなくても「不貞行為があったことを推認させる証拠」によっても認められます。
例えば、2人でラブホテルに出入りしている写真や、肉体関係を前提とするLINE等のメッセージのやり取りの証拠が考えられます。また、当事者が不貞行為を認める発言(=自白)をしたことを裏付ける録音やLINE等のメッセージのやり取りも証拠になります。
また、単体では不貞行為を推認する力が弱くても、最終的には、他の証拠とも合わせて総合的に判断するので、証拠が多いことに越したことはありません。
浮気相手だけに慰謝料請求する事もできる?
結論としては可能です。
不貞行為の責任は、配偶者と不貞相手による「共同不法行為」なので、配偶者と不貞相手が連帯責任を負います。
連帯責任なので、一方だけに全部を請求することも可能です(もっとも、この場合は、後述するように、不貞相手から配偶者に求償される可能性があります。)。
特に、離婚をしない夫婦の場合は、配偶者に慰謝料請求をしても、夫婦の共有財産から支払われることになって家計に影響するため、不貞相手だけに慰謝料請求をする事案が多数あります。
慰謝料が増額するケース
不貞行為の慰謝料については、事案によって幅のある認定がされていますが、権利侵害の程度が大きいこと=夫婦の婚姻共同生活の平和に与えた影響・破壊の程度が大きいことが、増額のポイントと考えます。
裁判例上、慰謝料が増額されやすい類型を挙げてみます。
- ① 不貞の期間が長い
- ② 不貞の頻度・回数が多い
- ③ 婚姻期間が長い(もしくは、婚姻期間と比較した時の不貞の期間の長さ)
- ④ 不貞行為によって女性が妊娠・出産した
- ⑤ 不貞行為以前の夫婦関係が円満だった
- ⑥ 反省していない(指摘されても不貞行為を継続するなど)
- ⑦ 夫婦の間に未成熟子がいること
- ⑧ 不貞行為が原因で別居・離婚に至った
- ⑨ 請求相手の収入が高い
慰謝料請求の手続きと裁判の流れ
⑴ 誰に対して請求するか 主に3パターンが考えられます。
① 配偶者と不貞相手の双方
② 不貞相手のみ
③ 配偶者のみ
なお、不貞相手に請求する場合は、不貞相手が誰かを特定できることが前提になっています。相手方がどこの誰であるかがわからないと、交渉や裁判ができません。
⑵ 離婚をするか、しないか 手続きを考える際に、離婚を考えている場合は、配偶者の不貞行為については、離婚慰謝料として請求していくことになります(③のケース)。
以下では、離婚をしない場合や、不貞相手のみに請求する場合(①②のケース)を前提に、手続きや裁判の流れについてご説明します。
裁判外での交渉
不貞行為があった事実を指摘の上、不法行為に基づく損害賠償請求として、「●万円を支払え」という請求をします。
請求の方法は、面談・電話・郵便(書面)等が考えられますが、後述の時効との関係でも、内容証明郵便を利用して、書面で請求をすることをおすすめします。
交渉がまとまれば、示談書(和解書)を作成し、慰謝料の支払いを受けて終了となります。
特に相手方が不貞行為による責任自体は認めていて、金額のみが争点であれば、裁判外での交渉でまとまる可能性も高いです。
民事裁判
裁判外での交渉が決裂した場合は、民事裁判で争う方法が考えられます。
(なお、裁判外での交渉を経ずに、いきなり民事裁判を起こすことも可能です。)
特に、不貞行為の事実自体を争っている場合など、相手方が責任自体を認めない場合は、裁判外での解決が難しいことが多いです。
裁判の流れとしては、まず請求する側が、裁判所に訴状を提出します。訴状には、誰に請求するか(被告は誰か)、請求金額を記載の上、不貞行為の事実を裏付ける証拠と一緒に提出します。
その後は、両者が主張と反論を繰り返します。
途中で裁判所から和解の打診があり、和解をして解決する場合もありますが、和解ができない場合は、判決をもらうことになります。
慰謝料を支払う内容の判決が出た場合は、相手方から慰謝料の支払いを受けることになりますが、万が一相手方が支払いを怠った場合は、さらに相手方の財産を差し押さえる強制執行も考えていく必要があります。
自分で浮気相手との交渉する場合の注意点
裁判外での交渉では、当事者同士で冷静に話し合いができないことも多いです。
特に、不貞相手との直接交渉は要注意です。
話し合いのために、いきなり不貞相手の家に押しかけるなどはトラブルのもとで、場合によっては住居侵入だと言われてしまうリスクもあります。
また、話し合いの中で感情的になって、つい相手方を脅したり、侮辱したりするようなことを口走ってしまい、相手方から、恐喝や名誉棄損として逆に訴えられてしまうリスクもあるので注意しましょう。
弁護士に依頼するメリット
弁護士が窓口になることで、上記のようなトラブルを避けて、冷静に話し合いを進めることができるというメリットがあります。 また、事案の内容や手持ちの証拠を前提に、裁判になった場合の見通しについてもアドバイスが可能です。
当事務所では弁護士による無料法律相談を受付ております。詳しくはこちらから
浮気相手が弁護士つけてきた時の対応
慰謝料請求をしたところ、相手方(浮気相手)が弁護士をつけてくるという場合も考えられます。
その場合は、相手方に直接連絡することはやめて、代理人の弁護士を通して話し合いを進めましょう。
浮気相手に弁護士がついたからといって、請求をあきらめたり、過度に譲歩したりする必要はありませんが、法的な主張の妥当性が分からなかったり、交渉力の差を感じたりする場合は、請求する側も弁護士への相談や、弁護士への依頼を検討することをおすすめします。
浮気の慰謝料請求の時効について
不貞行為があった場合でも、慰謝料請求には時効があり、その期限を過ぎると請求できなくなってしまうので、注意が必要です。
具体的には
① 不貞行為・不貞相手を特定できた時から3年
② 不貞行為が始まってから20年
のどちらか短い方となります(民法724条)。
なお、②は法律上「除斥期間」と言って、厳密には時効とは異なります。除斥期間を経過すると、請求はできなくなってしまいます。
また、不貞慰謝料について、後述するように、離婚慰謝料として請求する場合は、離婚してから3年となります。
浮気の慰謝料請求の時効を止める方法
時効(①)については「時効の完成猶予」「時効の更新」事由を活用することで、時効の進行を止めることができます。
例えば、裁判を起こす、催告をする(内容証明郵便を使って支払い請求をする)などで時効の完成が一定期間猶予され先延ばしになります。
また、相手方が「不貞慰謝料を支払います」といった録音や書面がある場合は、「債務の承認」となって、時効が更新されます。時効が更新すると、進行していた時効の期間がリセットされて、再度ゼロからカウントすることになるので、時効の先延ばしすることができます。
浮気相手から求償権を行使されるケース
離婚をしない場合の解決方法として多いのは、不貞相手(浮気相手)のみに慰謝料請求をするケースです。
この場合は、不貞相手から「求償権」を行使されることに注意が必要です。
求償権は、不貞相手が請求された慰謝料を全額支払ったとしても、後で、不貞相手から配偶者に対して、原則はその半分(厳密には責任割合に応じた額)を不貞相手に支払うよう請求できる権利のことです。
請求する側としては、配偶者へ慰謝料請求する場合の家計への影響を考慮して、不貞相手のみを選んで慰謝料請求をしたはずなのに、求償権を行使されると、結局配偶者が不貞相手に一定額を支払うことになるので、家計への影響が生じます。
このような事態を事前に防ぐ方法としては、不貞相手と示談(和解)をする際に、「配偶者に対する求償権を放棄する」という合意内容を盛り込むことで、求償権の行使をできないようにすることが考えられます。
結婚していないカップルの場合の不貞慰謝料請求
不貞行為に基づく慰謝料請求については、結婚している夫婦を前提にしていると説明しましたが、結婚していないカップルについては一切認められないのでしょうか。
⑴ 内縁関係・事実婚関係にあるカップル
内縁関係・事実婚関係については、過去の裁判例でも「婚姻に準ずる関係」と認められています。
したがって、基本的には、内縁関係・事実婚関係にあるカップルも、お互いに貞操義務を負い、不貞による権利侵害が発生するので、不貞行為に基づく慰謝料請求が可能となります。
⑵ 婚約したカップル
婚約した後に、一方が、パートナー以外の者と肉体関係をもったことが発覚した場合、不貞慰謝料を請求することは検討できます。
また、そのことが原因で、婚約破棄に至った場合は、婚約破棄に基づく慰謝料請求として、不当な婚約破棄による精神的苦痛を主張し、不貞をしたパートナーに対し、慰謝料請求をすることも考えられます。
⑶ 交際関係にあるだけのカップル
上記のように、婚姻した夫婦と同視できるようなカップルを除き、単に交際関係にあるだけのカップルについては、不貞行為に基づく慰謝料請求をしても認められない可能性が高いです。
交際関係にあるだけのカップルには、夫婦貞操を守る義務が発生せず、その義務違反や、法律上の権利侵害が観念できないということが理由です。
離婚時における慰謝料請求の流れと注意点
不貞行為が離婚の原因である場合は、離婚の原因を作った者に対して、離婚慰謝料の請求が可能です。
離婚条件を話し合う際に、離婚慰謝料として請求をしましょう。
もっとも、不貞相手から既に相当な不貞慰謝料の支払いを受けている場合には、配偶者の離婚慰謝料債務も消滅すると考えられているので、配偶者に対してさらに離婚慰謝料を請求することはできません。
子供のいる場合の慰謝料請求と養育費
慰謝料の問題と養育費の問題は分けて考える必要があります。
不貞行為によって離婚原因を作ったことが、直接養育費の増額事由にはならないと考えられます。
弁護士にまずは無料相談
不貞慰謝料請求について、注意すべきポイントや、請求の流れの概略を掴んでいただけたら幸いです。
実際に、不貞慰謝料請求は、誰に請求するか?というところから選択肢が複数あるように、単純ではありません。
自分が何を望んでいるか、それを実現する方法として最も有効な方法は何かということを見極めて、方針を定めて動いていくことが重要だと思います。
初回は無料ですので、まずはお気軽に弊所弁護士にご相談ください。