無期懲役について弁護士が解説
はじめに
これまでにニュースなどで刑事事件の判決として無期懲役という言葉を聞いたことがあるかと思いますが、無期懲役とはどのような刑罰かご存じでしょうか。今回は無期懲役について解説を行います。
まず、無期懲役の解説を始める前に、日本の刑罰の種類について説明します。
刑罰の種類について
刑法の刑罰は大きく分けると、主刑と付加刑に分けられます。
さらに主刑は生命刑、自由刑、財産刑の3種類に分けられます。
生命刑とは人の生命を奪う刑罰で、死刑がこれに当たります。
自由刑とは人の自由を奪う刑罰で、懲役刑、禁固刑、拘留がこれにあたります。
財産刑とは人の財産を奪う刑罰で、罰金、科料がこれにあたります。
付加刑とは、上記主刑に加えて言い渡されることがあるもので、没収がこれにあたります。
次の項目では各分類の中の刑罰ごとの違いについて説明します。
各刑罰ごとの違いについて
自由刑の中の懲役と禁固と勾留の違いは?
まず自由刑のなかの、懲役刑と禁固刑の違いについて説明いたします。
・懲役刑は身体が刑事施設に拘置されるとともに労務作業が強制されます(刑法12条)。
・禁固刑は身体が刑事施設に拘置されますが、労務作業は課されません(刑法13条)。
そのため、刑事施設に拘置されることは共通ですが,労務作業が強制されるか否かが懲役刑と禁固刑の違いということになります。
これに対して
・拘留は、身体が、1日以上30日未満の間、刑事施設に拘置されるというものです(刑法16条)。
拘留では、労務作業は課されませんので、刑期の短い禁固と考えれば良いと思います。
財産刑の中の罰金と科料の違いは?
また財産刑の罰金と科料との違いですが、罰金は1万円以上とされ(但し、減刑されることによって1万円未満になることもあります。刑法15条)、科料は1000円以上1万円未満とされるという違いがあります(刑法17条)。
ちなみに、科料は「かりょう」と読みますが、同じく「かりょう」と読む過料というものもあります。
実務上、両者を区別するために、科料を「とがりょう」、過料を「あやまちりょう」と読んだりもします。
過料は、一般に、行政上の秩序罰といわれ、刑事罰とは異なるので、細かな説明は割愛いたします。
無期懲役はどんな刑罰か
これまで、各刑罰の分類の説明をしてきましたが、
今回のテーマの無期懲役は、その名のとおり、上記の分類では主刑>自由刑>懲役刑の中の一つの刑罰と言うことになります。
懲役刑は、期間の定めのある有期懲役と、期間の定めのない無期懲役があります。有期懲役は原則として1月以上20年以下の範囲で定められます(加重や減刑により最大30年までを定めることも可能です。)。
これに対して無期懲役は、懲役の期間が定められませんので、上記の20年や30年といった刑期に限定されません。
しかし、無期懲役刑の受刑者は、一生刑事施設から出てこられないのかと言われると、そうでもありません。
一生刑事施設から出てこられないこともあれば、刑事施設から出てこられることもあります。一生刑事施設から出てこられない刑罰として「終身刑」というものを思い浮かべる方も多いと思います。
そこで、次に、終身刑と無期懲役の違いについて説明します。
終身刑と無期懲役の違い
終身刑と聞いてどのような刑罰のイメージを持たれるでしょうか。
文言をそのまま理解すれば、一生(終身)刑事施設で拘置される刑罰ということになりますが、必ずしもそうではありません。
終身刑でも、一生刑事施設から出られないものと、刑事施設から出られる可能性のあるものがあります。
一生刑事施設から出られない終身刑を「絶対的終身刑」といい、
刑事施設から出られる可能性がある終身刑を「相対的終身刑」といいます。
そのため日本刑法の無期懲役という刑罰は相対的終身刑と実質的な違いはありません。
そうすると、無期懲役と終身刑との違いとしては、刑事施設から出られる可能性があるのが無期懲役(≒相対的終身刑)であり、一生刑事施設から出られないのが絶対的終身刑ということになります。
日本に終身刑はあるのか
日本では懲役刑及び禁固刑には仮釈放という制度が認められています(刑法28条)。
そのため、日本には絶対的終身刑に相当する刑罰は存在しません。もっとも、日本でも終身刑を導入しようとする動きはあります。
日本刑法で定められる生命刑としての死刑という制度は、多くの難しい問題を含んでいますので、死刑を廃止するとともに、死刑に代わる刑罰として「刑の言い渡し時には仮釈放の可能性のない終身刑制度」という制度の設立が提言されています。
なお、この場合でも、時間の経過によって受刑者の更生が進んだ場合には、事後的に無期刑に減刑することができる制度も合せて設計されるべきとされており、絶対的終身刑に近い刑罰になるのかは、まだ定まっていません。
無期懲役と仮釈放
先ほどの項目で、日本では懲役刑及び禁固刑には仮釈放という制度が認められていると説明しましたが、無期懲役の場合でも仮釈放が認められます。
そして、無期懲役の場合でも仮釈放が認められれば、刑事施設から出られることになります。
そこでまずは、仮釈放の制度について説明いたします。
仮釈放とは
まず仮釈放は、刑法28条に定められる制度ですが、ここでは、「懲役又は禁固に処せられた者に改悛の情があるときは、有期刑についてはその刑期の三分の一を、無期刑については十年を経過した後、行政官庁の処分によって仮に釈放することができる。」と定められています(刑法28条)。
読んで字の如く、刑期満了前であっても一定期間が経過した後に、反省や更生が認められた受刑者を、刑事施設から仮に釈放して、社会生活内で引き続き更生をさせる制度です。
この仮釈放は、以前は仮出獄と呼ばれていましたが、名称が変わっただけで同じ制度です。
仮釈放という制度がなぜあるかというと、法務省のQ&Aでは、
「仮釈放等とならずに収容期間を満了して矯正施設から出所した人は、保護観察が受けられません。矯正施設を出所した人が、保護観察による指導や援助を受けられず、社会への適応が図られないまま再犯に至ってしまうことは、出所した本人、社会の両者にとって不幸なことです。仮釈放等の制度は、矯正施設に収容された人の更生を助け、再犯を防止し、もって社会を保護することを目的とした制度なのです。」
と説明されています。
(https://www.moj.go.jp/hogo1/soumu/hogo_hogo10.html 参照)
仮釈放がどのような場合に認められるのか
では仮釈放とはどのような場合に認められるのでしょうか。
先に記載した刑法28条によると、仮釈放の条件としては、改悛の情があること、有期刑については刑期の三分の一を経過し、無期刑については十年を経過した後に、行政官庁の処分によってなされることが分かりますが、それ以上の記載はありませんので、他の法律を確認していきます。
仮釈放については更生保護法に記載があり、同法16条は「地方更生保護委員会(以下「地方委員会」という。)は、次に掲げる事務をつかさどる。」と規定され、同条1号には「刑法第二十八条の行政官庁として、仮釈放を許し、またはその処分を取り消すこと。」と記載されています(更生保護法16条1号)。
さらに、同法39条1項は「刑法二十八条の規定による仮釈放を許す処分は、地方委員会の決定をもってするものとする。」と規定されますので(更生保護法39条1項)、刑法28条でいうところの「行政官庁の処分」というのは、更生保護法による「地方更生保護委員会の決定」によるということが分かります。
地方更生保護委員会はどのような場合に仮釈放の決定をするか
またどういう場合に、地方更生保護委員会が仮釈放の決定をするかについては、
「犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則」の28条に、(更生保護法)法第三十九条第一項に規定する仮釈放を許す処分は、懲役又は禁固の刑の執行のため刑事施設又は少年院に収容されている者について、悔悟の情及び改善更生の意欲があり、再び犯罪をするおそれがなく、かつ、保護観察に付することが改善更生のために相当であると認めるときにするものとする。ただし、社会の感情がこれを是認すると認められないときは、この限りではない。」と規定されています。
ここでは、①悔悟の情及び改善更生の意欲があり、②再び犯罪をするおそれがなく、③保護観察に付することが改善更生のために相当であると認められ、④社会の感情が仮釈放を是認すると認められることが要件とされています。
上記①から④の条件については、これを具体化するものとして、法務省の通達(法務省保観第325号 平成20年5月9日)があり、概要、以下のとおりとされています。
① 悔悟の情及び改善更生の意欲があることについて
⑴ 悔悟の情が認められるためには、刑を言い渡される理由となった犯罪による被害の実情及び当該犯罪に至った自己の問題性を正しく認識していることを前提として、その上で悔いる気持ちが認められることが必要であること。
⑵ 改善更生の意欲があると認められるためには、刑を言い渡される理由となった犯罪による被害者等に対してどのように償うべきかを正しく認識し、かつ、償いをする気持ちがあることを前提とし、その上で再び犯罪をしないためにどのような生活を送るべきかを正しく認識し、かつ、過去の生活を改め健全な生活を送る気持ちが認められることが必要であること。
が、それぞれ必要であるとされており、また各内容については、受刑者の発言や書面に記載される文言のみならず、同発言や文言が真摯な気持ちに基づくものであることが、客観的事実から判断されるべきとされています。
② 再び犯罪をするおそれがないことについて
⑴ 性格、年齢、経歴及び心身の状況
⑵ 刑を言い渡される理由となった犯罪の罪質、動機、態様、結果及び社会に与えた影響
⑶ 刑事施設における矯正処遇の経過、及び効果
⑷ 釈放後の生活環境
⑸ 保護観察において予定される処遇の内容及び効果
⑹ 悔悟の情及び改善更生の意欲の程度
を要考慮事情として、「仮釈放中」に何らかの犯罪をするおそれが合理的に想定し得ない程度に至っていなければならないとされています。
③ 保護観察に付することが改善更生のために相当であると認められることについて
保護観察を付することが改善更生のために相当であると認められるかについては、刑事施設において予定される処遇の内容及び効果に加えて、上記①や②で検討した事項を考慮して判断するものとされています。
④ 社会の感情が仮釈放を是認すると認められることについて
「社会の感情」については、被害者等や地域社会の住民の具体的な感情は、重要な考慮要素となるものの、それらの感情そのものではなく、刑罰制度の原理・機能という観点から見た抽象的・観念的なものであることに留意して、以下の事情を考慮して判断されます。
⑴ 被害者等の感情
⑵ 上記⑴のほか、収容期間及び仮釈放を許すかどうかに関する関係人及び地域社会の住民の感情
⑶ 裁判官又は検察官から表明されている意見
⑷ 上記①から③で検討した事項
仮釈放は上記①から④を検討し、相当と認められた場合に、更生保護法上の地方更生保護委員会の処分として認められることになります。
無期懲役の受刑者はどのような場合に仮釈放の審理がされるか
これまでの項目で、無期懲役の場合であっても、仮釈放が認められれば刑事施設から出られること、及び、仮釈放がどのような条件で認められるかについて説明してきましたが、
実際には無期懲役の受刑者のうち、どれくらいの割合の人が、どれくらいの期間で仮釈放が認められているのでしょうか。
刑事施設の長からの申出による仮釈放
まず仮釈放の手続きについては、
刑事施設の長は、懲役又は禁固の刑の執行のため収容している者について、
刑法第28条に規定する期間が経過したときは(無期刑にあっては10年が経過したときは)、その旨を地方委員会に通告しなければならず(更生保護法33条)、
加えて、刑事施設の長は、懲役又は禁固の刑の執行のため収容している者について、
刑法28条の期間が経過し(無期刑にあっては10年が経過し)、かつ法務省令で定める基準(犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則の28条)に該当すると認めるときは、
地方更生保護委員会に対し、仮釈放をすべき旨の申出をしなければならないため(更生保護法34条)、刑事施設の長から申出を受けた地方更生保護委員会は仮釈放を許すかを審理することになります。
地方更生保護委員会による独自の仮釈放
また、地方更生保護委員会は、刑事施設の長からの仮釈放の申出がなくとも、必要があると認めるときは、独自に仮釈放を許すか否かの審理を行うことができるとされています(更生保護法35条)。
そして、この「必要があると認めるとき」を具体化するものとして、法務省の「無期刑受刑者に係る仮釈放審理に関する事務の運用について」と題する通達(法務省保第134号 平成21年3月6日)によって、無期刑受刑者が刑の執行を開始した日から30年が経過したときは、同法35条の必要があると認めて仮釈放審理を開始するものとされています。
また、この審理で仮釈放が許されなかった無期刑受刑者については、審理の終結の日から10年が経過したときは、再び同法35条の必要があると認めて仮釈放審理が開始されるものとされています。
そのため、無期刑受刑者は、少なくとも、刑の執行から30年が経過したときに仮釈放の審理がされ、仮釈放が認められない場合には、以後10年毎に仮釈放の審理が行われることになります。
無期刑の受刑者はどれくらいの期間で仮釈放の審理がなされるか
法務省が公表している統計によると、平成24年1月から令和3年12月までの間で、地方更生保護委員会による仮釈放の許否の判断がなされた件数は329件とされています。
このうち、30年が経過しないで地方更生保護委員会が審理をした案件(すなわち刑事施設の長が仮釈放を相当と認めて地方更生保護委員会に仮釈放の申出をした案件)は11件であり、うち5件は刑期が29年を超え、うち3件が28年を超え、うち1件が25年を超え、うち2件が19年を超えるものでした。
このうち19年を超える2件については、刑期が短い中で仮釈放の審理が行われていますが、これは受刑者がいずれも90代であり、かなりの高齢者であることが影響しているのではないかと思われます。
このような統計からすれば、96%を超える案件では、30年が経過する前には仮釈放の審理は行われておらず、30年を超えない場合であっても、一部の高齢者を除き、ほとんど30年に近い刑期が経過しなければ、仮釈放の審理は行われていないということが分かります。
加えて、刑期が30年を経過せずに仮釈放の審理がなされた上記11件のうち10件は平成27年までになされており、残りの1件は平成30年になされています。
そのため、
平成24年から平成27年までは、刑期が30年を経過せずに仮釈放の審理がなされたケースが10件あるものの(全体が101件ですので、約10%に当たります。)、
平成28年から平成30年までは、刑期が30年を経過せずに仮釈放の審理がなされたケースは1件しかなく(全体が107件ですので、1%にも届きません。)、
令和元年(平成31年を含みます。)から令和3年までは、刑期が30年を経過せずに仮釈放の審理がなされたケースは1件もありません(全体で121件ありました。)。
このような流れからすれば、刑期が30年を経過せずに仮釈放の審理がなされるケース自体は、平成28年以降、極端な減少傾向(ほとんどないと言える程)となっていると理解できます。
無期刑の受刑者はどれくらいの割合で仮釈放が許可されるか
同じく法務省の公表によると、
平成24年1月から令和3年12月までの間で、地方更生保護委員会による仮釈放の許否の判断がなされた329件のうち、約25%にあたる82件で仮釈放が認められています。
これを細分化して
平成24年から平成27では101件が審理され27件で仮釈放が許され(約27%)、
平成28年から平成30年では107件が審理され26件で仮釈放が認められ(約24%)、
令和元年から令和3年の区分けでは121件が審理され29件で仮釈放が認められていることから(約24%)、
各年度毎ではばらつきはあるものの、一定の期間で区切れば概ね25%程度の割合で仮釈放が認められているようです。
なお、仮釈放が許可された受刑者の平均在所期間については、
平成24年1月から令和3年12月までの間で平均で33.2年とされていますが、
これを再分化して、
平成24年から平成27年までの間では平均で約31.3カ月であり、
平成28年から平成30年までの間では平均で約32年であり、
令和元年(平成31年を含みます。)から令和3年までの間で平均で約36.4年となっており、
在所期間が増加する傾向にあるようです。
無期懲役となる罪について
以上を見てみると、無期刑の受刑者は、現在では、刑期が30年を経過しない段階ではほとんど仮釈放の審理は行われず、平均で36年を超えてから仮釈放の審理がなされ、仮釈放の審理がなされたうちの約4分の1のケースで仮釈放が認められているようです。
そのため、無期刑受刑者の多くは生涯刑事施設を出ることができず、改悛の情が認められることから仮釈放が認められる一部の受刑者についても、平均して約36年の在所期間を超えてから刑事施設から出ることを許可されているようです。