警察の取り調べは何日かかる?応じなくてもいいか弁護士が解説
2024年09月02日
大宮事務所
弁護士 藤本 健太郎
警察の取り調べの流れとは
①黙秘権の告知
被疑者、すなわち、何らかの犯罪について罪を犯したと疑われている場合の取り調べでは、まず最初に、取り調べを担当する警察官から、黙秘権についての告知を受けます。
黙秘権とは、言いたくないことは言わなくてもよいという権利です。黙秘権は、憲法や刑事訴訟法において、被疑者に認められる重要な権利ですので、被疑者として取り調べを受ける場合には、必ず、取り調べを担当する警察官から説明を受けます。
②犯罪事実についての説明
次に、疑いがかかっている犯罪事実について説明を受けることが多いです。
参考人として事情聴取を受ける場合とは異なり、何らかの罪を犯したと警察が考えていますので、具体的な犯罪の事実について、説明を受けた上で、その犯罪事実を行ったかについて聞かれることとなります。
③事情聴取
その後の事情聴取については、各犯罪事実ごとに聴取を受ける事柄が異なりますが、一般的には、当該犯行の状況に加えて、犯行に至る経緯・事情や犯行後の状況についても聴取を受けることとなります。
④供述調書の作成
それから、取り調べの最後に、供述調書という取り調べの内容について警察官がまとめた書面の作成が行われます。警察官が供述調書を作成すると、供述調書をプリントアウトして、被疑者に手渡した上で、内容を朗読します。
この際に、供述調書の内容を確認することとなります。
⑤署名・押印
最終的に、供述調書の内容に誤りがないことを確認した場合は、供述調書に署名・押印をし、取り調べが終了となります。
警察から呼び出されたら逮捕されるのか
警察が呼び出しをする場合には、被疑者として取り調べを行うための呼び出しと、参考人として話を聴取するための呼び出しがあり得ます。
被疑者として呼び出しを受けている場合
被疑者として呼び出しを受けている場合については、取り調べを受けた後に警察から逮捕されるということも可能性としてはあり得ます。
もっとも、警察が逮捕する際、必ず取り調べが事前に行われるというわけではありません。むしろ、警察が捜査の手を当該被疑者に広げていることが知られないようにするため、捜査を密行することもあります。
そのため、警察から被疑者として呼び出しを受けたからといって、必ず逮捕されるわけではありませんし、逮捕されないことも十分に考えられます。
参考人として警察から呼び出しを受ける場合
次に、参考人として警察から呼び出しを受ける場合は、事件について参考となる情報を聴取することが警察の目的です。
したがって、参考人として呼び出され、事情聴取を受けた場合、事情聴取が終了した後に逮捕されるということは通常はありません。
もっとも、参考人として呼び出しを受け、取調べを受けたものの、取調べの結果、罪を認めるなどしたため、犯罪の嫌疑が濃厚となり、参考人ではなく、被疑者だと判断された結果、逮捕されるということは考えられます。
警察の取り調べには何日、何回かかるのか
逮捕前の警察の取り調べの期間については、法律上何ら定めはありません。そのため、取調べに何日かかるかや、何回取調べを受けるかは、事案によって様々です。 逮捕後の取調べについては、刑事訴訟法に身柄拘束期間について決まっていますので、取調べを受ける日数については決まっています。
具体的には、逮捕をされてから、勾留というより長期間の身柄拘束が決定するまでの期間が1~3日、勾留された場合は、さらに最短10日間、最長で20日間の身柄拘束を受けることとなります。 この期間については、取調べを受ける義務が認められていますので、複数回の取調べを受けることとなります。
1回の取調べの時間についても、法律上の定めはありません。
しかし、一般的には、1回の取り調べの時間は、概ね2~3時間程度となることが多いです。もっとも、事案が複雑な場合や、疑いのかかっている犯罪事実について否認している場合などには、取調べが長時間となることがあります。これも、個々の事件によって異なります。
取調べ中に、気分が悪くなるなど体調が悪くなった場合には、警察官に対し、その旨申し入れるなどすることで、休憩となったり、取調べの日程を変更してもらうことも場合によっては可能ですので、遠慮することなく、伝えるようにしてください。
警察の取り調べにおける注意点
①記憶に従って質問に答える
人間の記憶は曖昧なことも多いです。
取り調べでは、警察官から様々なことが聞かれます。
聞かれたことに対しては、しっかりと確実に覚えている事実については、しっかりと覚えていることが伝わるように答えることが重要です。
他方で、記憶が曖昧なことや、正確ではない可能性がある事実もなかにはあると思います。その場合に、しっかりと覚えている前提で話してしまうと、後から真実と異なることが判明した場合に嘘をついていたと言われてしまうこともあり得ます。
そのため、記憶が曖昧な事実については、しっかりとした記憶ではないことを警察官に伝えた上で、回答するべきです。
②供述調書の内容はよく確認する
取り調べの最後に、取調べで話した内容が供述調書という形でまとめられます。
供述調書は、警察官が、被疑者・参考人から聞いた内容をまとめたものとなりますので、実際に話した内容と一言一句同じということにはなりません。
時には、文章にするとニュアンスが異なっているということもあります。その際には、○○の部分の表現は、自分が話した内容とは異なると警察官に伝えることが重要です。
最初は、警察官から、供述調書に記載した文について説明を受け、場合によっては、説得を受けることもあります。
その結果、警察官の説明に納得できる場合に問題はありませんが、納得できない場合もあると思います。納得できない場合は、警察官に○○の部分を△△に変えてほしいと伝えることもできますし、違う表現にしてほしいと伝えることもできます。
また、そもそも内容が異なっている場合には、再度、警察官に説明をする必要もあります。
その結果、最終的に納得できない内容である場合には、供述調書にサインしないこともできますし、納得できない内容の調書にサインしてしまった場合であっても、供述調書に署名・押印した場合には、通常、供述調書の内容を理解した上で、記憶のとおりであるものと考えられ、裁判でもそのようの扱われることがあります。
したがって、自分の記憶と異なる内容の供述調書にサインすることはしないようにしてください。
③黙秘権を適宜行使する
黙秘権とは、言いたくないことは言わなくてもよいという権利です。
この権利は、憲法上認められる、犯罪の嫌疑を受けている方にとって、最も重要な権利となります。
黙秘権は、取り調べの最初から継続して行使することもできます。いわゆる完全黙秘をすることができます。
また、一部分について黙秘権を行使することもできます。すなわち、取調べの際に、自分が答えたくない質問であれば、「言いたくない」旨を警察官に話すことで、黙秘権を行使することができます。
その際に、警察官から、「なぜ話したくないのか」と話さない理由について聞かれることが多いです。
しかし、黙秘権を行使することを侵害することはできませんので、話したくない理由についても話したくないのであれば、その理由についても答える必要はありません。
取り調べではどんな事を聞かれるか
取調べで聞く事実のうち、もっとも重要なのは、犯罪に関する事実になります。
具体的には、犯罪の日時、場所、方法や動機・原因、犯行の状況や犯行後の状況などの具体的な事実になります。 取調べをする警察官も、このような、5W1Hに基づいて事実を聞くことを訓練されています。
また、取調べにおいては、捜査官は、犯行の様子・状況を頭の中で映像的にイメージすることができるかということも考えています。そのため、犯罪に関する事実については、具体的かつ詳細に、映像としてイメージできるように流れに沿って質問をすることが多いです。
加えて、犯罪事実には直接影響しない、情状事実についても聞かれることがあります。
具体的には、被害弁償をしたかや被害者と示談が成立しているか、現在の反省の気持ちなどといった情状事実について、聞かれることがあります。
やり取りは録音してもいいのか
取調べの内容を録音することは、法律上違法とはいえません。
しかし、警察官は通常、取調べを録音されることをよしとしませんので、取調べを受ける前に録音していいかと聞く場合には、録音をやめるように言われる可能性が高いです。
また、取調べを受ける前に、電子機器の電源は切ってくださいと言われることもあります。
その場合には、録音することは難しいため、取調べを受けるにあたり、録音ができることを念頭に置いて出頭することは得策ではありません。
事前に弁護士に相談するなどして、強引な取調べなどに対応する方策を講じておくことがベストです。
参考人・重要参考人としての場合
参考人とは、被疑者以外の者となります。参考人には、被害者、目撃者、犯罪で使用された道具などに関与した者となります。
取調べの内容については、各参考人の種類により大きく異なりますが、犯罪について、何らかの嫌疑があり、まず重要参考人として事情聴取した上で、犯罪を犯したと疑うに足りると判断された場合には、被疑者に切り替えられ、警察から話を聞かれることがあります。
取り調べで嘘をついたらどうなる?
取調べで嘘をついた場合、被疑者として取調べを受けている場合については、罪に問われることはありません。
しかし、後から嘘をついていたことが発覚した場合については、取調べで話した嘘ではない部分の内容についても、信用性が疑われることとなります。
また、犯行について否認している場合などであれば、供述の信用性がないという警察や検察の主張を裏付ける事実となることも考えられます。
そのため、取調べであえて虚偽の供述することはリスクがあります。
記憶が曖昧な事実については、曖昧であることをしっかりと取調べを担当する警察官に伝えることで、後から嘘をついていたと追及されることを防ぐことができます。
参考人として取調べを受けている場合については、あえて嘘をつくことにより、捜査を攪乱し、犯人の発覚を妨害したとして、犯人隠避罪などに問われる可能性があります。
犯人隠避罪は、刑法で、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられることがありますので、注意が必要です。
取り調べに応じない場合のリスク
逮捕され身柄拘束を受けている場合でなければ、取調べを拒否することができます。
刑事訴訟法においても、「被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。」と定められています(刑事訴訟法第198条1項)
他方、逮捕されている場合については、身柄拘束を受けており、取調べを受けることを受任する義務があると実務上考えられていますので、通常、取調べを断ることはできません。
また、参考人についても、刑事訴訟法上、被疑者の場合と同様に、取調べを拒否することができると定められていますので、任意の取調べを拒否することができます。
しかし、参考人であっても、実は警察が犯罪をしたかもしれないと考えている場合があり、そのような場合に、取調べを拒否し続けると、逮捕される可能性があります。
もちろん、逮捕は、裁判所が犯罪の嫌疑があることを認めて、逮捕状を発布することが必要となりますが、証拠の有無によっては、逮捕されるリスクもありますので、警察の取調べに応じるか否かは慎重に考える必要があります。
強引なひどい取り調べを受けた場合
まず、取調べの状況について、日時、取調べを担当した警察官の氏名、どのような行為を警察官が行ったかなどについて、記録をとることが重要です。
また、強引な取調べを受けた場合には、供述調書などに安易にサインすることは控えるべきです。
弁護士に相談し、今後の対応についてしっかりと話し合うことが重要です。
勾留期間と延長の原因
勾留とは、逮捕した被疑者について、犯罪の真相を解明し、被疑者を起訴するか否かの処分を決定するため、一定期間身柄を拘束するものです。
勾留の要件は、刑事訴訟法に定めがあり、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があることに加え、
①被疑者が定まった住居を有しないとき
②被疑者が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき
③被疑者が逃亡し、又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき
上記のいずれかの要件を充たすことが必要です。
勾留するか否かは、被疑者の送致を受けた検察官が裁判所へ勾留を請求し、裁判官が被疑者を勾留するか否かを判断します。
裁判官が、勾留することを決定すると、その時点で、10日間の勾留が決定します。その後、検察官は、やむを得ない事由があるときは、勾留期間の延長を請求することができ、最長で10日間の勾留延長をすることができます。
やむを得ない事由とは、事件が複雑困難であり、関係者からの事情聴取が必要であるが未了であることや、証拠収集が遅延している等の事情をいい、勾留期間を延長して更に捜査を継続しなければ、被疑者を起訴するか不起訴にするか決定することができない場合に勾留延長が認められます。
勾留中の生活とは?
逮捕され勾留された場合、起訴される前もしくは釈放されるまでの間は、通常、留置場という施設に収容されることとなります。 留置場は、全国の警察署の建物内に設置されております。起訴された場合に、移送される拘置所とはことなります。
留置場での生活は、刑務所での生活とは異なり、取調べや実況見分などの捜査を受ける時間が一定時間あるため、労役などはなく、自由時間は、家族と面会したり、読書をすることで時間を過ごすこととなります。
弁護士に依頼するメリット
①立会いについて
日本では、弁護士が取調べに立ち会うことが権利として法律に定められてはいません。
したがって、弁護士の立会いを捜査機関に求めても、認められる可能性は高くありません。しかし、取調べへの立会いができない場合であっても、自宅から警察署や検察庁へ出頭する際に、同行することはできます。
そして、弁護士は、待合室などで待機することができますので、取調べの際に、疑問や不安が生じた際に、その都度弁護士に相談することが可能となります。
②見通しについて
弁護士に依頼することで、検察官が起訴するか不起訴にするかの見通しや起訴された場合、裁判でどのような刑に処せられるか、また、どれくらいの期間の刑となるかの見通しについて、助言を受けることができます。
今後の見通しを前提に、その都度で最善の弁護方針を提案することが可能となる点が、弁護士に依頼するメリットです。
③不当な取り調べ
弁護士に依頼している場合には、警察官や検察官からの不当な取り調べに対して、弁護士を通じて苦情を申し入れることができます。
苦情申し入れにより、捜査機関においても、事実の有無を確認したり、今後の取調べを慎重に行う可能性が生じますので、不当な取調べを防ぐ有効な手段といえます。
④逮捕された場合の対応
逮捕された場合には、逮捕や勾留に対して準抗告を行うことができます。
準抗告とは、裁判官の判断に対して不服を申し立てることです。弁護士に依頼している場合は、逮捕後速やかに、逮捕後の方針について、最善の対応を助言することができます。