婚姻費用・養育費算定における収入の認定(義務者が自営業者・役員報酬を得ている場合)
2020年03月31日
名古屋丸の内本部事務所
弁護士 渡邊 健司
婚姻費用や養育費の算定において,権利者・義務者双方の収入が考慮されていることは,よく知られているのではないかと思います。婚姻費用・養育費を算定する上で良く用いられている算定表でも,権利者,義務者の収入によって相関的に金額が決定される仕組みになっています。
単純化して言えば,権利者の収入が低く,義務者の収入が高額であるほど,婚姻費用・養育費の額は高額となり,権利者の収入が高く,義務者の収入が低額であるほど,婚姻費用・養育費の額は低額となります。
給料をもらっているサラリーマンであれば収入は前年の源泉徴収表を見れば明らかになりますし,個人事業主(自営業者)の場合,収入の認定は確定申告書の所得額によることになります。
これらの公的資料によって単純に収入を認定できればよいのですが,時として問題が生じることがあります。
例えば,確定申告書の所得額について,経費が過剰に計上され,見かけ上の所得が不当に抑えられている場合もあります。
この場合,確定申告書だけではなく,収支内訳書や青色申告決算書などを精査して,不自然な経費の計上がないかを検討しなければなりません。特に,離婚係争が長期に及び,養育費を請求する相手方が自営業者である場合,相手方が,養育費の額を低く抑えるために確定申告書の所得額を不当に抑えていないか,という視点で確認する必要があります。
また,給与所得者でも,実質的に個人事業と変わらない規模の会社の役員の場合,その給与額(役員報酬額)は恣意的に操作されている可能性があります。離婚紛争発生後に,それまでの役員報酬額と比較して極端に役員報酬が減額されている場合は,養育費を低く抑えるために操作されている可能性が疑われます。
婚姻費用や養育費の算定について,公的資料では収入が適正な収入が認定できない場合,厚生労働省の作成している統計資料「賃金構造基本統計調査」(賃金センサス)に基づいて認定される場合があります。例えば,平成30年の,男性,大学・大学院卒業,40歳~44歳の平均賃金は719万9200円とされており,このような統計上のデータに基づいて収入を認定し,婚姻費用や養育費が算定されることがあります。