不倫慰謝料の減額交渉について弁護士が解説
2024年09月17日
名古屋丸の内本部事務所
弁護士 坪内 みなみ
不倫慰謝料の減額交渉について
「あなたの不倫に対して慰謝料を請求します」と言われ、多額のお金を請求されることがあります。
このとき、不倫の事実自体はある以上、請求されたお金をそのまま支払わなければならないのか、と悩んでしまうかもしれません。
しかし、必ずしもそのまま全額を支払わなければいけないわけではありません。
ここでは、慰謝料を請求された場合の対応について、解説をしていきます。
慰謝料を減額できる可能性のあるケース
慰謝料を請求される場合、それはあくまで請求する側が「支払ってほしい」と考える金額です。そのため、必ずしも慰謝料が減額される事情まで考慮されているわけではありません。
ここでは、慰謝料を減額できる可能性のあるケースをいくつかご紹介します。
時効が成立している場合
不倫による慰謝料請求は、法的には、不法行為に基づく損害賠償請求ということになります。
不法行為に基づく損害賠償請求については、請求することができる期間に制限があります。
次のいずれかの期間を過ぎてしまった場合、時効によって請求する権利は消滅してしまいます。(民法724条)
- ・不倫の事実とその相手を知ったときから3年間
- ・不倫があったときから20年間
したがって、慰謝料を請求されている原因について、これらの期間より前にあった不倫の事実も含まれている場合、その部分についての慰謝料は請求できない、と主張することができます。
相手にも過失がある場合
不倫に対する慰謝料を算定する際には、請求する側にも何らかの落ち度が認められる場合、慰謝料の金額を減額する事情として考慮されることがあります。
例えば、不倫に至った事情の一つに婚姻関係の悪化があり、婚姻関係が悪化したことについて慰謝料を請求する側にも落ち度が認められる場合などがあります。
経済的事情を考慮される場合
慰謝料を支払う資力が十分にないことは、慰謝料を支払わなくてよい理由にはなりませんが、そのことが慰謝料の金額の算定にあたり考慮されることがあります。
婚姻関係が破綻していた場合
不倫による慰謝料が認められる理由は、不倫によって夫婦の平穏な婚姻生活を破綻させることにあります。
そのため、不倫があった時点で、婚姻関係がすでに破綻していたと認められる場合には、慰謝料の請求自体が認められないことになります。
また、婚姻関係が破綻するには至っていない場合であっても、破綻に近い状態まで悪化していた場合には、減額する事情として考慮されます。
慰謝料請求の根拠が薄い場合
不倫の事実が認められなければ、そもそも慰謝料は認められません。
慰謝料請求の原因とされている不倫の事実について、お互いの主張が異なる場合には、客観的な証拠などの根拠が十分にないと不倫の事実は認められにくくなります。
そのため、不倫の事実が明らかではないことを理由に減額することができる可能性があります。
減額が難しいケースとその理由
請求された慰謝料が高額な場合には、減額の交渉ができないかを検討します。
しかし、慰謝料の金額は事案によって異なるので、不倫の具体的な状況や、請求する側の事情によって、減額交渉が難しいケースがあります。
以下では、その一部のケースをご紹介します。
明確な証拠がある場合
慰謝料の根拠となる不倫の事実が認められるかどうかは、それを裏付ける証拠があるか否かによります。
つまり、証拠が十分にそろっていれば、裁判になってもそのとおりの事実が認定される可能性が高くなります。
そうすると、請求する側としては、減額に応じず裁判の手続きによることも考えられますので、減額の交渉がしにくくなります。
重度の精神的・肉体的被害が認められる場合
裁判所が慰謝料の金額を判断する際には、不倫をされた側がその不倫の事実によって受けた影響も考慮されます。
不倫の内容とも関わってきますが、不倫をしたことが原因で相手が精神上の障害を患ってしまうケースや、それによって日常生活に重大な支障が生じてしまうケースでは、より損害の程度が大きいと判断されます。
そのようなケースでは、慰謝料も高額になる傾向がありますので、減額の交渉が難しくなる傾向にあります。
不倫に至る積極性が認められる場合
不倫に至った経緯の中で、積極的に不倫を行うことを持ちかけた側であった場合、夫婦の婚姻生活を破綻させる加害の意思が強いと判断され、より重い責任が認められる可能性があります。
不倫発覚後も継続していた場合
不倫が一度発覚して二度と関わらないことを約束したにもかかわらず、その後も継続していた場合、その態様が悪質であると判断される可能性があります。
自分で行う慰謝料減額の交渉の流れ
不倫による慰謝料の請求がされた場合、まずはご自身で減額の交渉をするという方法も可能です。
一般的には、請求された内容を確認し、それに対するご自身の認識や意向を回答し、そのやり取りを繰り返して最終的な落としどころを見つけていきます。
どのような条件であれば示談できるかは、相手次第なところもあるため、交渉してみないことには分かりません。
そのため、まずは最低限支払うことを予定している金額を提示し、徐々にすり合わせていくという方法が考えられます。
そして、最終的な条件がまとまれば、その内容を書面にして残しておくことになります。
減額交渉の期間
解決までにかかる期間は相手や状況によっても異なりますので、減額交渉をする期間は一律には決まりません。
例えば、請求する側が不倫の証拠を十分に掴んでいるケースでは、たとえこちらが裁判などの大事にしたくないと思っていても、相手は短い交渉期間で裁判の手続きに進んでしまう可能性があります。
一方で、減額する方向に働く事情がある場合には、請求する側も早期に裁判の手続きに進むメリットが小さいため、減額交渉がしやすいと言えるでしょう。
慰謝料交渉のための証拠について
不倫慰謝料を請求するためには証拠が必要だ、ということはよく言われています。
しかし、慰謝料を減額する事情については、請求された側が証明できるようにしておく必要があります。
そのため、不倫に関して証拠になりそうなものは、慎重に扱わなければなりません。
例えば、不倫慰謝料の請求をされて焦って不倫相手とのメッセージなどのやり取りを消してしまった、という場合に、そのやり取りの中にこちらに有利な事情も含まれていると、それも証明が難しくなってしまいます。
相手方との話し合いで注意すべき点
不倫慰謝料を請求される場合、相手方は不倫をされたことに対して怒りの感情を持たれていることが多いです。
そのため、まずは相手方との話し合い自体ができるよう、謝罪や反省の態度を示し、なるべく早期に対応することをおすすめします。
また、相手方の主張する内容について、事実と違うところがないか、確認してから回答をしましょう。
一度認めたことを後からくつがえすことは難しいですし、言った・言わないの話になって交渉がスムーズに進まなくなるおそれがありますので、慎重に対応することをおすすめします。
慰謝料減額交渉が失敗した場合の対処法
自分で減額の交渉をしてみたものの、相手方が納得してくれず減額できなかった、という場合でも、対処する方法はあります。
不倫慰謝料は、不倫をした配偶者と不倫相手が、他方の配偶者に対し賠償するものになります。
そのため、仮に慰謝料全額を負担した場合、不倫をしたもう一人の方に対してその一部を負担するよう求償することが考えられます。
再交渉の方法とタイミング
交渉がなかなか進まない場合には、一度時間を置いて検討することも一つです。
相手方は早く支払ってほしいと考えているはずですが、まとまったお金を支払うことになると経済的事情も無視できませんから、真摯に対応した上で検討するのであれば拒否はしないでしょう。
その間に第三者に相談してみるのも一つです。
そして、検討した結果・相談した結果を伝えて、再度交渉してみることが考えられます。
ただし、時間を置きすぎると、相手方もしびれを切らしてしまうため、放置をしてしまうことは避けた方がよいでしょう。
裁判に持ち込む際のポイントと手順
相手方に弁護士がついていて「裁判にする」と言われた場合には、弁護士がついていない場合と比べて、裁判に進む可能性が高くなります。
そのとき、すでにご紹介したような減額できる可能性のあるケースでは、裁判で客観的に判断してもらうということも考えられます。
一般的には、お金を請求する側が裁判を起こすことになるので、裁判を起こされたら対応をしていくことになります。
相手方が裁判を起こすと、「訴状」という相手方の請求内容が記載された書面が裁判所から郵送されてきます。
その内容を確認して、「答弁書」という書面を提出し、指定されている期日に出廷することになります。
交渉が進まない場合の対応策
相手方が減額の話合いに応じない様子である場合には、話合いが前に進まなくなってしまいます。
そのような場合には、第三者を介して話し合う方法を検討しましょう。
その際、共通の知人などに依頼をしても、どちらかの立場に寄ってしまうなど、中立の立場を維持するのは難しいです。
第三者を介する場合には、専門家である弁護士への依頼や、裁判所の調停での話合いを検討することをおすすめします。
慰謝料を払わない事のリスク
慰謝料を支払わない場合、相手方に十分な証拠がなければ諦めることもありますが、弁護士に依頼をしたり裁判を起こしたりして請求される可能性があります。
不倫の事実を周りに隠している場合、不倫慰謝料を請求する内容の手紙が自宅に届くと、同居している家族などに知られてしまうリスクがあります。
また、裁判まで進んだ上で無視をしてしまうと、判決をもとに強制的に財産を差し押さえられてしまうリスクもあります。
減額交渉を弁護士に依頼するメリット
① 冷静な話し合い
不倫慰謝料が請求されるケースでは、感情的になってしまい当事者同士では話し合いが難しいということもよくあります。
そのような場合は、第三者である弁護士を介することによって、冷静に話し合うことが可能になります。
② 金額の妥当性
請求された金額が果たして相当な金額なのかどうか、支払わないと裁判を起こされてしまうのではないか、と不安に思われることもあると思います。
弁護士のアドバイスを受けることによって、具体的な状況に基づいた妥当な解決を目指すことが可能になります。