永遠に払い終わらない債権?利息が発生し続ける例 最高裁平成29年10月10日決定
2022年05月20日
名古屋丸の内本部事務所
弁護士 勝又 敬介
弁護士に頼むなどして、相手方に金銭の支払いを命じる勝訴の判決をもらったとしても、それ自体は紙切れに過ぎません。相手方が判決に従った支払をしない場合には、判決に基づいて強制執行を申し立て、相手の財産から金銭を回収する必要があります。
強制執行の対象としては、銀行預金、不動産、現金なども考えられますが、相手方にまとまった財産が無いような場合に有力な候補になるのが相手方のお給料です。相手方に現時点で財産がなくとも、相手方が差し押さえ先の会社(この場合、「第三債務者」という立場になります)で働く限り、継続して給料の中から一部(全額の支払いを命じてしまうと、債務者も生活が出来ないので、法律上給与の一部しか差し押さえることは出来ません)が差押をした債権者に支払われるからです。
また、判決に基づいて給与債権の差押を行う際には、判決主文に利息の支払いが含まれていれば(例:500万円及びこれに対する令和3年5月1日から支払い済みまで年3分の割合による金員、等)、支払いが終わるまでの間、利息の発生が続きます。このため、給料の差し押さえを行った場合、差押に掛かる全額の支払いが終わるまでの間、給料の一部から支払いが続きますが、この差押が続いている間も、利息の発生は止まらないことになります。
一方、債権差押の実務上、差押を申し立てた債権者は、申立日までの利息についても差押を行うことができ、かつ債権差押の申立書にこれを記載する裁判実務となっており、裁判所の差押命令もこの記載を元にされます。
更に、法律上は債務の弁済については、費用、利息、元本の順に弁済を行うことになっています。
この結果、元本と利息の支払いを求めて差し押さえをして、第三債務者が裁判所の差し押さえ命令に示された全額を支払っても、利息から充当される結果、債権者は元本全額の回収を受けていないという事態が発生するのです。
債権の元本が払い終わらない例
例を用いて説明します。300万円の元本と申立日までの1年分の利息(9万円)の合計309万円の支払いを求めて裁判所に給与債権の差し押さえを申し立てたとします。このとき、前記の実務により債権差押の申立書や裁判所の出す差押の命令には、元本と申立日までの利息、及び債権執行の費用(裁判所に納める費用。ここでは計算しやすいようにちょうど1万円とします)が記載されています。
仮に毎月弁済を受ける金額が10万円(ボーナスは考えないことにします)だとすると、309万円及び執行の費用1万円を足すと310万円になるので、回収するのに31ヶ月かかります。
ところが、この31ヶ月の間も、元本300万円に対しては年利3%で利息が発生し続けます。給料の支払日ごとに元本も減っていくので、利息も段々減っていきますが、非常にざっくりとした計算でも、10万円以上の利息になります(実際には厳密に計算して求める事になりますがここでは省略します)。
この「申立後に発生した利息」も、債権差押による弁済の充当対象になることを、最高裁平成29年10月10日決定は判示していますので、31ヶ月後の時点までに支払われた310万円は、「執行の費用1万円」「元からあった利息9万円」「執行中に生じた利息10万円」に優先的に充当されることになります。したがって、元本の返済に回るのは残りの290万円しかないということになります。
このため、債権執行の対象となったお金を第三債務者が支払終わった時点で、債権者の元には元本10万円が残っていることになるので、債権者は更に10万円の支払いを求める事が出来ることになるのです。
仮にここでもう一度給与債権執行を申し立てると、申立日までの利息に加えて、申立から支払いまでの間の利息もまた発生することになるので、このときも元本が少額ながら残ります。
これを繰り返していると、理屈の上では「裁判所の命令通りに支払っているのに、いつまで経っても元本が払い終わらない」という奇妙な事態が発生することになります。(現実的には債務者も何処かの段階で任意に払うでしょうし、債権者の側もあまりに少額になれば執行を断念するのでしょうが・・・)
債権の執行には、法令や裁判実務の取扱、判例の知識なども欠かせません。債権の回収についてお困りの際には、是非弁護士にご相談下さい。
以上、最高裁平成29年10月10日決定の紹介でした。