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弁護士コラム Column

「じっと見つめていることのできないもの」

2007年10月10日
弁護士 上野 精

「じっと見つめていることのできないもの」
いささか旧聞に属するが、鳩山法務大臣が「死刑だけ署名なぜ必要」として「法務大臣が絡まなくとも、死刑執行が自動的に進むような方法はないのか」と発言したことを捉え、『「暴言」なのか、それとも問題提起か。』と9月30日付朝日新聞が報じ、また、10月1日付中日新聞は、『今日の「法の日」は、法律により社会を動かしていく「法の支配」の確立を目指し制定された。そのための重い責任を負っている法相の「署名なし死刑執行」などの思いつき発言は弊害が大きい。』との前提のもとに「法相の認識が足りない」との見地から、社説において批判的見解を述べている。
しかし、朝日の報ずるところによれば、8月末に就任(当時は安部内閣)してから、それまでの法務大臣の死刑執行命令の数を前提に、陰に陽に「あなたは何人」との質問を突きつけられ、「そんなことが話題になること自体おかしいのではないか」との疑問が生じ前記発言に至ったもののようである。
そうとすれば「死刑の執行は法務大臣の命令による。前項の命令は、判決確定の日から6か月以内にこれをしなければならない。但し、・・・」と規定する刑事訴訟法475条(訓示規定と解されている。)の問題点の指摘として理解できるものであるが、より根本的な問題は、いうまでもなく「死刑」の存置そのものであろう。
「死刑」については、存置論、廃止論の両者の対立は古く、実定的には、世界の主要国中廃止国約90箇国に対し、存置国約60箇国と伝えられている。また、「死刑制度の存廃につき国民的議論を尽くし死刑制度に関する改善を行うまでの一定期間死刑の執行の停止を求める(愛知県弁護士会会長声明ほか)」立場もある。
「死刑」についての考え方は、各国固有の歴史、文化、習慣、宗教等が複雑に絡み合うものであることは当然として、光市母子殺人事件に見るように、社会における犯罪状況、マスコミの報道姿勢、またこれを背景とする世論の動向などもあって、軽々に結論を見いだしがたいところである。
「じっと見つめることができないものがある。太陽と死と」といわれるが、鳩山発言を機に「死刑」の存廃について熟考すべき時期が来たように思われる。

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