酷暑と熱中症
2018年09月03日
名古屋丸の内本部事務所 弁護士 檀浦 康仁
今年の夏は暑いですね。
名古屋市では,観測史上初めて40度を超えるという日がありました。
名古屋市だけではなく,愛知県豊田市,岐阜県多治見市,岐阜県下呂市,岐阜市等でも観測史上の最高温度が塗り替えられ,熱中症による死者も多く出ています。
熱中症と言えば,先日,愛知県豊田市で,熱中症で小学校1年生のお子さんが亡くなったという痛ましいニュースがありました。
そこで,学校活動における熱中症について,法律家の観点から,少し述べてみたいと思います。
そもそも熱中症というのは,高温環境下で,体内の水分やミネラルのバランスが崩れたり,体内の調整機能が破綻するなどして発症する障害の総称です。
死に至る可能性のある病態ですが,予防法を知っていれば発症を防ぐことができますし,発症してしまっても,適切な応急措置を知っていれば救命することができます。
熱中症は,熱失神(一過性の意識消失),熱けいれん(痛みを伴う筋肉のけいれん),熱疲労(高度の脱水と循環不全により生ずる,めまい,頭痛,吐き気等の全身性の症状),熱射病(体温が40度以上に上昇し,脳を含む重要臓器の機能が障害されることにより生ずる,体温調節不全,意識障害)という4つの病態に分類されます。
いったん,熱射病を発症してしまうと,迅速適切な救急救命処置を行っても救命できないこともあるため,熱疲労から熱射病への進展を予防することが重要です。
このような熱中症に関して,学校の教師は,どのような注意義務を負うのでしょうか。
我が国において,スポーツ活動について,初めて熱中症の予防対策が広く一般に周知されたのは,平成6(1994)年の日本体育協会の「熱中症予防のための運動指針」によってでした。したがって,この指針の公表前には,スポーツ活動における熱中症の予防対策等が広く一般に知られているとはいえない状況でした。昭和50年代には,部活動中の急性心不全による死亡事故について,教師や学校の注意義務違反を否定した裁判例も見られます。
しかし,この指針の公表前に発生した熱中症による死亡事故についても,既に,学校の教師が,熱中症の予防のために運動開始前に異常がないかを注意し,水分塩分の補給を図る注意義務があるのにこれに違反したとする裁判例や,活動中に異常が見られた場合に,休息及び水分補給をさせる義務があるのにこれに違反したとする裁判例もありました。
現在では,各種の熱中症予防の指針等が公表されており,学校の教師が環境要因に対応した注意義務(① 気温・湿度の高さ,② 直射日光・風の有無,③ 急激な暑さ等に配慮する義務),主体要因に対応した注意義務(① 体力・体格の個体差,② 健康状態,体調,疲労の状態,③暑さへの慣れ,④衣服の状況),運動要因に対応した注意義務(① 運動の強度,内容,継続時間,② 水分及び塩分の補給)等を負うことには,疑問の余地がないと考えられます。
現在,愛知県豊田市では,エアコンを愛知県豊田市内の全ての学校に設置するなど,環境要因に関して,環境を改善する方策を打ち出しているようです。
このこと自体は,良いことだと思います。
ただ,今回の死亡事故は,屋外活動で発生したものです。
この点,日本体育協会の熱中症予防運動指針によれば,暑さ指数では,31度(乾球温度では35度)以上で運動は原則中止すべき,28度(乾球温度では31度)以上で厳重警戒すべきで激しい運動は中止すべき,25度(乾球温度では28度)以上で警戒すべきで積極的に休息を取るべき,21度(乾球温度では24度)以上で注意すべきで積極的に水分補給をすべき,とされています。
酷暑の中では屋外活動を中止するようにしたり,運動の内容や個々の児童・生徒に対しての健康状態その他へ十分に配慮するようにしたりするなど,個々の教員が熱中症の発生防止・発生した場合の被害拡大防止に向けて十分に注意義務を果たすことができるような研修・教育がなされることが重要であると思われます。
愛知県豊田市に限らず,全国の地方自治体・教育機関において,十分な対策が取られ,二度とこのような悲しい事故が起こらないことを心から願っています。