遺産分割(寄与分の主張)
2012年01月21日
「私はずっと10年間、田舎で亡母親の看病をしてきました。それなのに、都会である名古屋にでて、ろくろく帰って来なかった長男と平等に相続するというのは、納得できません!」
今回は、寄与分(民法904条の2)についての説明です。
法律上は兄弟姉妹間は公平に相続されるのが原則です。
しかし、ずっと介護をしてきた相続人、両親の事業に貢献してきた相続人などの実績を考えなければ、不公平な結論になることもあります。
そこで、民法は、「被相続人の財産の維持又は増加」に「特別」に寄与した人に、少し有利に考える制度を定めました。
これを寄与分といいます。
なお、寄与分は、立証可能ならば、どれだけ古くても主張することができます。
但し、特別に寄与したといえるためには、相当程度の貢献が必要となります。
例えばたまにお見舞いに行っていた程度では療養看護としての寄与分が認めらることは難しいといわれています。
また、例えば「毎日何時間も被相続人の話し相手になっていた」という場合であっても、これが直ちに寄与分として評価される訳ではありません。
話し相手になったとしても、「被相続人の財産の維持又は増加」には寄与していないことも多いからです。
ポイントは、「被相続人の財産の維持又は増加」に貢献したか否かであり、それ以外の様々な事情も、
『財産の維持又は増加』
という視点から捉えて主張することになります。
例えば療養看護の実際の交渉の場でも、
「当方の行為により、本来被相続人が支払うべき介護費用を支払わなくて済んだ」
などの主張をすることになります。
計算方法としては、例えば実際に相続人が毎日看護していた場合は、
「職業付添人の通常の平均的日当額×療養看護日数」
などの主張がなされることが通常ですが、このような主張が全てとおるわけではありません。
裁判所には例えば社団法人日本臨床看護家政協会のHPにある、職業看護者の就労状態アンケート結果などが提出されることがありますが、実際に裁判所で認定される金額より高額という印象があります。
例えば
・2年6ヶ月の間、日常の世話、入退院の付き添いなどを行った相続人に300万円の寄与を認めた例(広島高決平6・3・8)
・左手左足に麻痺が残る被相続人を7年余り介助した相続人に170万円の寄与を認めた例(東京家審平12・3・8)
などがあり、参考になります。
また、
「介護の実費を僕が負担をしていた。少なくともこの分は寄与分になりませんか?」
という相談もよく受けます。
残念ながら、実費全額が寄与分になるわけではありません。
本来子供は親を扶養する義務がありますので、子供が当然に負担すべき扶養義務の範囲を超えたといえる場合にはじめて、実費が寄与分として認められます。
療養看護以外では、被相続人が事業を行っており、それを相続人が手伝っていた場合などが争点になりやすい事柄です。
無報酬、あるいは低い報酬で家業を手伝っていた場合などは、本来得るはずの報酬との差額を、寄与分として主張することがあります。
寄与分の算定方法は一律ではありません。
実際には、「療養看護もしたし、事業も手伝ったし、不動産もプレゼントした」などの、複合的な事案も多数存在します。
また、そのような寄与をした相続人は、被相続人の生前に、財産の贈与を受けていることもあります。
つまり、当方の寄与分を主張する場合、逆に相手方から当方の特別受益を指摘されることも多くあるのです。
事案に応じて、弁護士と相談し、過去の裁判所の事例とも比べながら、妥当と思える算定方法を主張するのが通常です。
何が正しいかの判断が難しい事柄ですので、一度は弁護士にご相談下さい。