財産分与の調停を申し立てる方法とメリット
2022年09月28日
名古屋丸の内本部事務所
離婚の際には、未成熟の子供がいる場合には親権、養育費、面会交流についても争いとなりますが、子供の有無にかかわらず問題となるのは財産分与です。
財産分与については、まずは当事者間の話し合いで決めることになりますが、話がつかない場合には裁判所に財産分与調停を申し立てて解決を図ることとなります。
調停はどのように申立てをして、どのように進んでいくのかについては、イメージしづらい点もあるかと思いますので、財産分与調停申立ての方法、流れ、メリット等についてご紹介します。
財産分与調停を申し立てる方法
調停の申立て
申立て先
調停で財産分与を求める場面としては大別して、
①離婚調停とともに財産分与調停を申し立てる場合、
②離婚後に財産分与調停を申し立てる場合が考えられます。
原則として相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申立書類を提出して申し立てる必要がありますが、当事者が合意で定める家庭裁判所に申し立てることも可能です。
相手方の住所地が遠方であるような場合には、電話会議による調停手続が可能ですので、相手方が遠方に居住していることへの弊害はそこまで大きくはありません。
最近では、Web会議での調停手続を実施している裁判所もあり(名古屋家庭裁判所では実施されています)、今後も普及していくものとみられます。
調停申立てに必要な費用と書類
調停の申立て費用については、申立手数料として、①②いずれの場合も1,200円分の収入印紙が必要となり、その他相手方に申立書類等を送付するのに必要な切手代(予納郵券)が必要となります。
また、申立ての際には、夫婦の戸籍謄本や夫婦の財産に関する資料(不動産登記 事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金通帳の写し等)が必要となりますので、事前準備が必要です。
財産分与調停申立て後の流れ
調停期日当日の流れ
調停を申し立てると、申立てから約1~2ヶ月後に調停期日が指定されます。
期日当日は、指定の時間までに裁判所に行き受付をした後(電話会議やWeb会議を除く)、待合室で待機します。
待合室は申立人用の待合室と相手方用の待合室に分かれており、また申立人と相手方で期日の呼び出し時間もずらしているため、基本的には当事者が直接顔を合わすことのないような形で運用されています。
指定の時間になると、調停委員がいる調停室に案内されます。調停は原則として、裁判官1人と調停委員2人(通常は男女各1名)で構成される調停委員会により行われますが、基本的に裁判官は調停成立時・不成立時などの場面にのみ出席し、手続きを進行させるのは調停委員です。
当事者が交互に調停委員と話をし、各々自己の言い分を伝えます。争点の多さにもよりますが、概ね1期日あたり、2~3往復くらいします。その後、次回期日までに双方または一方が準備する事項を明確にした上で次回の調停期日を決め、第1回調停期日は終了となります。
期間
概ね1~2ヶ月の間に1回の頻度で期日が開かれることとなり、通常は3カ月から長くても1年以内に終了する事案が多いですが、争点が多い場合や争いが激しい場合等には1年以上かかる事案もあります。
上記のとおり、当事者は交互に調停室に入ることになるため、相手方と同室内で話し合いをすることは基本的にありませんが、建物内外で鉢合わせないとも限りません。
DV事案等で相手方に会いたくないよう場合には、事前に裁判所に事情を伝えておくと、相手方より先に帰宅する等の配慮をしてもらえます。
調停終了時の流れ
調停期日を重ね当事者双方で合意ができれば、裁判官、調停委員、当事者双方立会のもと、裁判官が調停条項を読み上げて内容を確認し、当事者が合意をすることで調停が成立します。なお、DV事案等で相手方と顔を合わせたくない場合などには、事前に裁判所に伝えておくことで、交互に読み上げを行うなどの配慮をしてもらえます。
また、合意内容を記載した調停調書の謄本・正本の交付は、申請することで郵送ないし手渡しで受け取ることができます。
調停期日を重ねても当事者双方で合意ができない場合には、原則として調停は不成立で終了することとなります。
注意点
①離婚調停とともに財産分与調停を申し立てた場合、離婚及び財産分与ともに合意ができなければ不成立で終了し、原則として訴訟で争うことになります。
離婚については合意できるが、財産分与について合意できなかった場合には、離婚調停及び財産分与調停ともに不成立で終了させて、上記のとおり訴訟提起をするか、あるいは離婚調停のみ成立で終了させ、財産分与審判を申し立てることが考えられます(調停は当事者の話し合いによる解決ですが、審判は裁判所の決定による解決です)。
婚姻費用を受け取っている側からすると、後者のように離婚調停のみ先に成立させると、離婚成立に伴い婚姻費用を受領することができなくなるため、婚姻費用の受領継続を念頭におく場合には、離婚調停及び財産分与調停ともに不成立とした方がメリットになる場合があります。
また、②離婚後に財産分与調停を申し立てる場合、財産分与請求権は離婚後2年以内に請求しなければ権利が消滅しますので、期限を過ぎないよう注意が必要です。
なお、②の場合には、調停が不成立となれば、審判に移行することとなります。
財産分与調停を申し立てるメリット
財産の開示について
例えば協議で財産分与を行おうとした場合に、相手方が特定の金融機関に預貯金を持っているにもかかわらず開示しないような場合には話が進みません。調停では、裁判所から相手方に対し財産を開示するよう促すことにより、協議よりも財産の開示が期待できます。
それでも開示に応じない場合には、調査嘱託という手続により、裁判所経由で特定の金融機関から預金情報を開示してもらえる場合があります。ただ、調停段階では、裁判所は調査嘱託を認めない傾向にあるといわれています。
法的視点に基づく解決について
また、財産分与については、財産分与の対象となる財産の範囲や、財産分与で考慮される債務の範囲、財産分与の対象となる財産の評価の方法など財産分与に係る知識がないと判断が困難な事項が多岐にわたりますので、裁判所の法的な視点を踏まえて、財産分与の話し合いを進めることのできる点で調停にはメリットはあるといえます。
履行勧告・財産差し押さえなどの強制執行について
さらに、調停が成立したにもかかわらず、相手方が財産分与の支払いを行わない場合には、裁判所が相手方に調停の合意内容を守るよう履行勧告をしてもらうことが可能です。
加えて、調停調書には相手方が任意に履行しない場合に、相手方の財産差押えなどの強制執行をすることできる効力がある点でもメリットがあります。
以上のように、裁判所が関与する調停には様々なメリットがありますが、裁判所はあくまで中立的な立場であり、一方当事者の味方ではないため、積極的に自己に有利となる情報を教えてくれるわけではありません。
そのため、調停においても、法的な視点から自己に有利な主張をしていくことが重要であり、特に婚姻期間が長期にわたる場合の財産分与では、法的知識の違いで分与額が大きく異なる場合がありますし、相手方が特定の財産を開示しない場合には、弁護士会照会を利用して開示を求めることができる可能性もありますので、まずは弁護士に相談されることをお勧めします。