通勤途中に転倒や事故に遭う等し負傷した場合
2022年06月30日
名古屋丸の内本部事務所
社労士 小木曽 裕子
通勤途中に転倒や事故に遭う等し負傷した場合、通常、通勤災害として労災保険の使用が可能です。
しかし、通勤の途中には、食事をしたり、コンビニやスーパー等で買い物をしたりと、寄り道をすることも多いと思います。
このような場合に労災保険が使用できるのでしょうか。
労災保険法では、通勤について以下のとおり定義しています。
1 寄り道をした場合の労災適用
しかし、通勤の途中には、食事をしたり、コンビニやスーパー等で買い物をしたりと、寄り道をすることも多いと思います。 このような場合に労災保険が使用できるのでしょうか。 労災保険法では、通勤について以下のとおり定義しています。
労災保険法第7条
② 前項第三号の通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。
一 住居と就業の場所との間の往復
二 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
三 第一号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)
③ 労働者が、前項各号に掲げる移動の経路を逸脱し、又は同項各号に掲げる移動を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後の同項各号に掲げる移動は、第一項第三号の通勤としない。ただし、当該逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であつて厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、この限りでない。
上記のとおり定義されておりますので、通勤を逸脱・中断した場合には、原則として、その逸脱・中断中はもちろん、その後通勤経路に戻っても、もはや労災保険の使用はできないことになります。
この逸脱・中断が日常生活上必要な行為として認められている一定の場合には、その後通勤ルートに戻った後の負傷は労災使用が可能となります。
この「逸脱・中断」や「日常生活上必要な行為」については、通達(昭和48年11月22日基発644)において例示されており、下記のようなことが示されています。
「逸脱・中断」に該当するケース
- 麻雀を行う
- 映画館に入る
- バー等で飲酒
- デートのため長時間に亘ってベンチで話し込む
「逸脱・中断」に該当しないケース
- 経路上に店でタバコ、雑誌等を購入
- 経路上に店で、渇きをいやすため、ごく短時間お茶やビール等を飲む
「日常生活上必要な一定の行為」
- 独身者が食堂に立ち寄る
- クリーニング店に立ち寄る
以上のとおり、通勤から外れた行為を行った場合でも、一定の場合には労災保険の適用が可能となります。
2 自賠責保険や任意保険の使用
車両が絡んだ通勤中の事故の場合、労災保険の他に、自賠責保険や任意保険から補償を受けられることがあります。ただし、いずれかの制度から補償を受けた場合は、同一目的で重ねて別の制度から補償を受けることはできません(損益相殺)。
この場合に、どの制度から補償を受けるべきか悩まれるものと思いますが、この判断要素として、過失相殺や、労災特別給付金が挙げられます。
(1) 過失相殺
① 労災保険
労災保険給付に過失相殺はありません。そのため、過失が10割あったとしても、労災給付は過失相殺されることなく受けることができます(ただし、故意や重過失によって起こした事故は支給制限があります)。
② 自賠責保険
過失が7割未満であれば、過失相殺されないものとされています。ただし、傷害による損害(後遺障害・死亡以外)については、支給される金額が120万円までとされており、120万円を超える金額については任意保険にて対応されることとなります。
③ 任意保険
通常、過失割合に応じた金額が支給されることとなります。
(2) 特別支給金
特別支給金は、労災保険法に基づき支給されますが、保険給付ではなく、福祉の増進を目的として、休業、後遺障害、死亡を事由として支給されるものです。 保険給付ではないため、労災や自賠責、任意保険から保険給付を受けていても、損益相殺されることはありません。 なお、主な支給内容は以下のとおりです。
【定率または定額の特別支給金】
①休業特別支給金
休業 4日日から 1日につき給付基礎日額の 20%相当額
②傷病特別支給金
※療養開始後、1年6か月を経過しても、傷病が治っておらず、その傷病が下記等級に該当する場合に支給
等級に応じ、下記一時金。
傷病等級 | 額 |
1級 | 114万円 |
2級 | 107万円 |
3級 | 100万円 |
③ 障害特別支給金
障害等級 | 額 |
1級 | 342万円 |
2級 | 320万円 |
3級 | 300万円 |
4級 | 264万円 |
5級 | 225万円 |
6級 | 192万円 |
7級 | 159万円 |
8級 | 65万円 |
9級 | 50万円 |
10級 | 39万円 |
11級 | 29万円 |
12級 | 20万円 |
13級 | 14万円 |
14級 | 8万円 |
④遺族特別支給金 300万円
【賞与を算定基礎とする特別支給金】
持別給与を算定基礎とする特別支給会の支給額は、算定基礎日額をもとにして計算されます。
算定基礎日額 = 被災日以前1年間に受けた特別給与の額(算定基礎年額) / 365
ただし、算定基礎年額は、給付基礎日額(年金たる特別支給金が支給される場合は、法第8条の2第1項に規定する年金給付基礎日額)に365を乗じて得た額の20%に相当する額又は150万円のいずれか低い方の額が上限とされています。
① 傷病特別年金
病等級に応じて次表の年額が支給されます。
傷病等級 | 算定基礎日額 |
1級 | 313日分 |
2級 | 277日分 |
3級 | 245日分 |
② 障害特別年金
害等級に応じて、次表の額の年金が支給されます。
障害等級 | 算定基礎日額 |
1級 | 313日分 |
2級 | 277日分 |
3級 | 245日分 |
4級 | 213日分 |
5級 | 184日分 |
6級 | 156日分 |
7級 | 131日分 |
③障害特別一時金
害補償一時金又は障害一時金を受ける者に対し、障害の程度に応じて、次表の額の一時金が支給されます。
障害等級 | 算定基礎日額 |
8級 | 503日分 |
9級 | 391日分 |
10級 | 302日分 |
11級 | 223日分 |
12級 | 156日分 |
13級 | 101日分 |
14級 | 56日分 |
④遺族特別年金
遺族の数等に応じて次表の額の年金が支給されます。
遺族の数 | 算定基礎日額 |
1人 | 153日分(※) |
2人 | 201日分 |
3人 | 223日分 |
4人以上 | 245日分 |
※ ただし、その遺族が55歳以上の妻又は一定の障害の状態にある妻の場合は算定基礎日額の175日分がいないとき
上記以外にも給付される内容がありますので、詳細は労働局HP等をご確認下さい。
労災保険給付の請求用紙は特別支給金の請求用紙を兼ねているため、労災保険請求を行えば、同時に特別支給金の請求も行っていることになります。
以上のとおり、過失相殺の面や、特別支給金の面からも、労災請求にはメリットがありますので、支給事由に該当する場合には、請求をご検討下さい。