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弁護士コラム Column

就業規則がない事のメリット・デメリットを社労士が解説

2024年07月10日
名古屋丸の内本部事務所  社労士 小木曽 裕子

就業規則がない場合のメリット

就業規則がない場合のメリットは、作成における費用や時間、労力が浮かせられる点にあります。

​​就業規則を作成する場合は、一般的に社会保険労務士など専門家に頼むケースが多いので相場として10万~30万円ほどのコストが発生したり、自力で作成する場合でもかなりの労力と時間がかかります。​​そのため、就業規則を作成しないことにより、それに費やす時間や費用を他に回すことができます。

​​また就業規則がない場合、法律の範囲内において、組織運営の決定に比較的融通を利かせることができます。

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就業規則がない場合のデメリット

就業規則がない場合のデメリットは、労使間トラブルのリスクや、懲戒処分ができない、助成金の利用制限、他様々な法的リスクにさらされるという点が考えられます​。

​労働基準法第89条において、常時10人以上の労働者を使用する場合は、就業規則の作成および管轄労働基準監督署への提出が義務付けられており、これに違反した場合は30万円以下の罰金に処せられる可能性があります。

​​また、上記以外にも、就業規則を作成しないことにより、以下のような様々な法的リスクにさらされる可能性があります。

  1. (1):定年を定めていないことで、高齢になった従業員を辞めさせたい場合でも、会社が一方的に雇用契約を打ち切ることができない。
  2. (2):問題を起こす従業員がいた場合に、懲戒処分や部署異動をする等、適切な対応をとることが必要だが、これが困難となる。
  3. (3):欠勤や残業が発生した場合等の給与計算根拠が曖昧となることで従業員とトラブルが生じ、信頼関係を保つのが難しくなる。

その他、就業規則がないことにより、副業や人事異動、会社における禁止行為等、様々なルールが曖昧になることで従業員の統制が困難となることや、助成金申請において就業規則を必要とするケースが多いことから、受給機会を逃してしまうといったデメリットが考えられます。

違反、罰則について

以下のように就業規則が適切に作成等されないことにより、労働基準法違反として、30万円以下の罰金が科される場合がありますのでご注意下さい。(労働基準法第120条)

  1. ①常時10人以上の従業員を使用しているのにもかかわらず就業規則を作成していない場合(労働基準法第89条)
  2. ②就業規則に記載する事項には、「絶対的必要記載事項」と「相対的必要記載事項」がありますが、「絶対的必要記載事項」の内容が漏れていた場合(労働基準法第89条)※絶対的必要記載事項の内容は厚生労働省のページを参照してください。
  3. ③就業規則の作成や改定を行う際は労働者の過半数で組織する労働組合(労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者)の意見を聴かなければならないとされていますが、それを無視して作成を行った場合(労働基準法第90条)
  4. ④所轄労働基準監督署に届出をしなかった場合(労働基準法第89条)
  5. ⑤作成した就業規則を従業員に周知をしなかった場合(労働基準法第106条)

 厚生労働省「就業規則にはどのようなことを書けばいいのですか。」

退職への対応について

多く発生する退職に伴う問題として、「急に出勤しなくなる」「引継ぎがされていない」ということが挙げられます。

​このような問題を防止するために、就業規則へ業務の引き続き等を完了しなかった場合の退職金減給や不支給に関する規定をすることが考えられます。

​​ また退職後の秘密保持を厳守させるために、違反した場合の退職金返金義務や損害賠償請求について規定しておくことが考えられます。

​​上記のように、退職に伴う問題の発生を就業規則の定めにより低減することは可能ですが、法令や公序良俗違反により無効とされる可能性もありますので注意が必要です。

懲戒処分などの対応

懲戒処分は社内ルールを守らない従業員に対して与える処分であり、刑事罰と同様に罪刑法定主義(処分の対象となる行為、処分の種類、処分の内容を事前に明らかにしておくこと)が取られています。

​​そのため従業員が守るべきルールやこれに違反した場合の処分について予め定めておかないと、違反行為が発生した際に対処できないなど、会社側が不利になる可能性があります。

​​会社を統制することや従業員に働きやすい環境を提供するために、懲戒規定は丁寧に作りこむ必要があります。

​​ 一般的な懲戒処分は以下になります。

懲戒の種類

(ア) けん責・・・始末書などを提出させ厳重注意を行う

(​イ) 減給 ・・・給与の一部を減給 (1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならないというルールが労働基準法で決まっています)

(​ ウ) 出勤停止・・・1~2週間など一定の期間出勤を禁じる

(​​ エ) 降格・・・役職や職位などを引き下げ

(​ オ) 諭旨解雇・懲戒解雇・・・退職届の提出を促すことや会社が一方的に労働契約を解除

助成金がもらえない

最近では従業員の処遇を改善したり、定年を引き上げたり、仕事と家庭の両立に取り組んだりした場合に、一定の条件を満たすと、国や市町村から様々な助成金を受給することができますが、そのほとんどの支給条件として取り組み内容を就業規則へ規定することとされています。  

​​そのため、就業規則がない会社がいざ助成金を受給しようとした際に、申請ができず困っているという相談をいくつか受けたことがあります。  

​​特に従業員10人未満の会社では作成義務がないために後回しの課題としがちですが、上記の様々な問題に対処するために、就業規則は作成しておくべきです。

​​会社が成長し、従業員が増えた後にルールを設けることは、法的な面や浸透しづらいといった問題がありますので、早めに作成することをお勧めします。

就業規則が必要な企業とは?

就業規則の作成が法律で義務付けられているのは、「常時10人以上の労働者がいる事業所」で、所轄の労働基準監督署への提出も必要です(労働基準法第89条)。

​​ ここでいう「常時10人以上」とは企業が雇用をしている従業員が10人以上いることを指しており、企業と従業員の間で直接的に雇用契約を結んでいれば、正社員だけでなく、パートやアルバイト、契約社員など雇用形態に関係なく対象となります。
​​
​​ ただし、期間の定めがある従業員を雇用し、一時的に10人以上になっている場合は、契約期間が過ぎれば10人未満に戻るのでこの場合はカウントされません。​​また、役員や派遣社員、業務委託者など、会社と雇用関係にない人も人数としてカウントされません。

​​ 複数の事業所がある場合は、企業全体の人数で考えるのではなく、事業所ごとの人数で考えることになります。
​​例えばA事業所の従業員が5人、B事業所で10人の従業員がいた場合は、B事業所においては必ず就業規則を作って監督署へ提出しないといけませんのでご注意ください。

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就業規則を労働基準監督署に届け出ていない場合どうなる?

就業規則の作成義務または届出義務に違反した場合は、罰則があり、30万円以下の罰金を受けることになっています(労働基準法第120条)。

​​また従業員との労働条件などを変更しているのにもかかわらず就業規則を変更していない場合も同様に罰金の対象となります。

​​ 30万円ならまあいいか、と思う事業主もいるかもしれませんが、厚生労働省ホームページにおいて、労働基準関係法令違反として公表される可能性もあります。​​公表された場合、企業の信頼に影響を及ぼし、罰金以上に大きなものを失う可能性があります。

​​今の時代、SNSで情報が拡散され、多くの人に知られることがありますので、顧客との取引や、採用活動に悪影響を及ぼす危険性があります。

届出されていない就業規則の効力

上記のとおり、常時10人以上の従業員がいる事業所は就業規則を作成し、管轄労働基準監督署へ届け出ることが義務付けられています。

​​就業規則を作成しても、届け出がされていなければ労働基準法違反となり、罰則の対象となります。

​​しかし、就業規則の効力は、届け出がされていなくても、その内容が従業員に周知されていれば発生するものと考えられています(フジ興産事件H15.10.10最高二小判決)。

​​逆に、労働基準監督署へ届出をし、受理印を受けても、周知されていなければ、効力が否定されることとなります。

​​「従業員から有給休暇を請求されたくない」「不都合があった場合に気軽に修正をしたい」等の理由で周知をしていないというご相談をうけることがありますが、周知がされていないと、その効力が否定され、懲戒処分等の会社を統制するための規定を適用できなくなる恐れがありますので、注意が必要です。

以上のとおり、就業規則の効力は周知によって生じるものとされていますが、その内容が法令に違反する場合や、個別労働契約の内容を下回るものである場合は、その効力が否定されることになります。

​​また、既存の労働条件を下回る内容へ就業規則を変更する場合は、その内容に高度な合理性が求められることとなりますので、就業規則の作成・変更には充分な検討が必要となります。

就業規則を作成するか迷う方へ 

結局のところ就業規則を作成すべきなのかどうか、迷っている経営者も少なくないと思います。企業それぞれの特性や方向性によって考え方が違いますし、こうするべきだ、というはっきりとした正解はありません。

しかし、一企業として立ち上げた以上、もしくは立ち上げてやっていく上では、事業を成功させたい、会社を成長させていきたいという思いは自然と出てくるはずだと思います。

​​そうしたときに重要になってくるのが就業規則です。

従業員が増えていくと何かしらの労使トラブルはつきものです。就業規則があることで、トラブルが起きた場合でも就業規則に従い、迅速に処置を行うことができますし、明確なルールがあることで従業員の理解も得やすくなります。

​​もし、従業員の理解が得られず労働審判や訴訟へ発展した場合でも、就業規則があることで会社側の対応に違法性が無いことを立証できる可能性があります。

また会社が行き詰ったときや資金繰りが厳しくなった時に助成金を受けたくても、就業規則がなければ受けることができない場合が多いです。  ​​そういった場合を常に想定し、就業規則を作成又は改定し、トラブルを回避していきましょう。

​​ また、一度作成した就業規則は、従業員の方へ不利な内容へ安易に変更することはできませんので、様々な情報を入手し、先を見通したうえで作成されることをお勧めします。

​​ 弊所には、社労士だけでなく弁護士、税理士、司法書士が在籍しておりワンストップで対応が可能です。就業規則の作成はもちろん、企業の労働問題について無料相談も行っておりますので、お気軽にお問合せください。

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この記事の著者

小木曽 裕子

社労士

小木曽 裕子(おぎそ ゆうこ)プロフィール詳細はこちら

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