時間外手当請求事件における労働時間の立証について(2)
2020年09月02日
名古屋新瑞橋事務所所長 弁護士 上禰 幹也
名古屋新瑞橋事務所所長の弁護士の上禰幹也(じょうね みきや)です。 さて、2020年4月6日の檀浦康仁弁護士のブログでは、「タイムカードによって労働時間を証明することができない」場合であっても、「会社のパソコンのログイン・ログアウトの時間や、事務所の入退出の記録、業務日報やタコグラフ」等の資料を用いて労働時間を立証して、残業代を請求することが可能な場合があることが紹介されています。 もっとも、上記記事で紹介をされている「会社のパソコンのログイン等の時間や、事務所の入退出の記録、業務日報やタコグラフ」は、全て会社側が管理している情報であるところ、タイムカードもなく、会社側からこれらの情報の開示を受けることができないような場合は、労働時間の立証ができず、残業代の請求ができないという結論になるのでしょうか。 そもそも労働基準法は、時間外労働について厳格な規制をとり、使用者である会社に、労働者の労働時間を管理する義務を課しており(労基法108条、同施行規則54条1項5号・6号)、厚生労働省も、使用者に対し、適正に労働時間の管理を行うためのシステムの整備、労働時間を適正に把握するための責任体制の明確化とチェック体制の整備等を求めています(「賃金不払残業の解消を図るために講ずべき措置等に関する指針」(平成15年5月23日付け基発0523004号)) それにも関わらず、タイムカードやその他客観的な資料をもって、会社が労働時間を管理していない場合に、残業時間が分からないから残業代が請求できないという結論になるとすれば、労働時間の管理義務を履行していない会社が逆に得をするという結論になってしまい、不当と考えられます。
過去の裁判例でも、「タイムカード等による出退勤管理をしていなかったのは、専ら使用者の責任によるものであって、これをもって労働者に不利益に扱うべきではないし、使用者自身、休日出勤・残業許可願を提出せずに残業している労働者が存在することを把握しながら、これを放置していたことがうかがわれることなどからすると、具体的な終業時刻や従事した勤務の内容が明らかではないことをもって、時間外労働の立証が全くされていないとして扱うのは相当ではない」(大阪高裁平成17年12月1日判決、労判933号69頁、ゴムノイナキ事件)として、ある程度概括的に残業時間を認定した事案もあります。
当職が担当した事案の中でも、タイムカードが存在せず、会社側から労働時間を裏付けるような情報の開示を得られなかった事案であっても、上述の通り労働時間を管理していなかったのは会社の責任であり、それにより労働者が不利益を被るべきでないと主張して、1日あたり何時間の残業というような概括的な推定計算を認めさせた事案や、終業後の恋人へのメールの時間といった個人的な資料から終業時間を推定することを認めさせた事案もあります。
このように、タイムカードをはじめ労働時間を立証する客観的資料が存在しない場合であっても、残業代を請求できることもございますので、一度、弁護士に相談してみることをお勧めします。