労災保険給付と過失相殺の先後関係
2020年05月25日
津島事務所所長 弁護士 加藤 耕輔
以前の記事において,労災保険給付の受領がある場合には,一定のルールのもとに損害賠償額から控除されることについての記述をしました(「損益相殺」といいます)。
このほか,被災者に労災事故発生について過失がある場合には,会社側に安全配慮義務違反あるいは過失があって民事上の賠償責任が発生する場合であっても労働者の過失の割合に応じて損害賠償額が減額されます(「過失相殺」といいます)。
具体的な損害賠償額を算出するにあたり,この「損益相殺」「過失相殺」どちらを先に行うかが問題となります。
労災保険による給付を控除してから過失相殺を行った方が,被災者(または遺族)が受け取ることができる金額は多くなりますが,判例上は「過失相殺を先に行い,その後で労災保険給付金などの既払い金の控除を行う」こととされています。
こうした判例上の処理によると,ある損害費目における過失相殺後の価額が,既に受領している当該費目に対応する労災保険給付額を下回る状況(適切な表現ではないかもしれませんが,もらいすぎている状況)が起き得ます。
損害費目としての治療費は,過失相殺が生じれば常時生じるでしょう。
この場合でも,いわば「もらいすぎ」の労災給付額を他の費目に充当することはできないとされていますので注意が必要です(前回記述の「労災保険給付の控除について」を参照ください)。