労災保険と民事上の損害賠償請求の関係
2020年02月14日
弁護士 加藤 耕輔
一般の方で,労災保険と民事上の損害賠償請求の関係について,そこまで理解している方は少ないかもしれません。
労災保険と民事賠償請求は,我が国では併存主義(どちらも請求しうる)が採用されています。今回は,その差についてなるべく平易に説明してみたいと思います。
⑴ 会社の帰責性について
労災保険の請求には,会社側の帰責性は必要ありません。
一方,民事上の損害賠償請求には,会社側の帰責性(不法行為における故意過失や,安全配慮義務違反)が必要です。
⑵ 支払いが認められる範囲について
労災保険では,労災保険法に規程される各種給付がなされますが,民事上の損害賠償請求では求めることができる精神的損害(慰謝料)について補填を受けることはできません。
また,労災給付では休業補償も欠勤等により生じた損害の全てが補填されるわけではありません(大まかにいえば6割の補填です)。
全ての損害を求めるのであれば民事上の損害賠償請求を行う必要があることになります。
⑶ 過失相殺
労災保険では,被災者の過失は考慮されません。
一方,民事上の損害賠償請求では被災者側にも労災事故の発生に対する過失があれば,過失相殺が行われます。
過失相殺とは,損害額から被災者側の過失割合を控除する処理をいいます。
たとえば,損害額合計が1000万円であった場合に,被災者側に5割の過失があれば,被災者が会社に請求できる範囲は,半分の500万円ということとなります(厳密には労災給付金を既に受け取っているので,給付分の控除が必要となります。控除の仕方はやや特殊ですので,また,別の記事で説明したいと思います。)
以上が,労災保険と民事上の損害賠償の大まかな差異となります。
ご理解いただけたでしょうか。
昨今,企業に厳しい安全配慮義務などの判例理論や労働側の運動の影響もあり,被災者やその遺族から企業に対する損害賠償請求が認められることが増えているとも言われています。労災給付にとどまらず民事上の損害賠償請求ができるか否かは,事故態様を中心とした細かな事実の確認が必要となります。
素朴な疑問からでも構いませんので,是非,弊所にご相談いただければと思います。