続・終末期医療 尊厳死宣言公正証書について
2016年05月19日
名古屋丸の内本部事務所 弁護士 米山 健太
前回のブログ記事に引き続き,終末医療のお話です。終末期における治療のあり方を決定する際の重要な考慮要素の一つとして,リビング・ウィル(生前の患者様本人の意思)が挙げられます。これは,法的には患者様の自己決定権を根拠とするものです。近時は,リビング・ウィルを正確かつ確実に示すために,尊厳死宣言公正証書などを作成する場合も見られます。 尊厳死宣言公正証書は,公正証書の一種であり,作成過程において公証人が患者様の意思を確認した上で作成されるため,非常に証明力の高い証拠と言えます。 もっとも,現時点では尊厳死に関する法制度は未整備であり,法的リスクの不透明さは残ります。また,尊厳死宣言公正証書自体は単なる証書にすぎず,あくまで重要なのは患者様本人の真意であることを忘れてはなりません。そのため,終末期治療に関する意向が明らかな場合でも,その意向を決定するまでに医師が適切な説明を行わなかった場合には,やはり説明義務違反等の問題が生じます。特に,尊厳死の場合は生命にかかわる問題ですから,医師に期待される説明のレベルも高いものとなりがちです。医師としては,患者様の意向や公正証書を盲信するのではなく,専門家として十分な検討と説明をすることが期待されています。 終末期医療のあり方については,厚生労働省「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」をはじめ,様々なガイドラインが出されていますが,実務上の運用が固まっているとは言い難い部分もあるため,医学・法律・倫理といった多角的な視点からの検討が必要です。「本人が望んでいるんだから・・・」と思う前に,一度ご相談いただき,慎重な検討を加えるべきかと思います。