遺言の作成と最近の最高裁判決
2016年06月08日
名古屋丸の内本部事務所
弁護士 檀浦 康仁
1 はじめに最近,遺言をされる方が増えているようです。
遺言には,①自筆証書遺言,②公正証書遺言,③秘密証書遺言という3つの方式がありますが,この内,①自筆証書遺言について,最近出た2つの新しい最高裁判決を紹介します。
一つは,平成27年11月20日の判決であり,もう一つは,平成28年6月3日の判決です。自筆証書遺言というのは,遺言書の全文が遺言者の自筆で記述されている遺言で,遺言者が,日付と氏名を自分で書いた上,押印することが必要な遺言です。
2 平成27年11月20日最高裁判決平成27年11月20日の最高裁判決で問題となったのは,遺言者が遺言書に赤い斜線を引いたことについて,遺言が無効となるかどうか,です。遺言は,遺言者が故意に遺言書を破棄した場合には撤回されたものと見なされ(民法第1024条),効力が失われます。
そこで,遺言書全体に赤い斜線を引く行為が破棄に当たるか,が問題となりました。第1審の広島地方裁判所,第2審の広島高等裁判所は,元の文字が判読できる程度の斜線では,遺言の効力は失われないとして,遺言を有効と判断していました。これに対し,最高裁判所は,遺言は故意に破棄されたものであり無効であると判断しました。
3 平成28年6月3日最高裁判決平成28年6月3日の最高裁判決で問題となったのは,遺言者が押印の代わりに花押(署名の代わりに使用される記号・符号)をしていた場合に,押印の要件を満たすかどうか,です。原審の福岡高等裁判所は,花押は,文書の作成の真正を担保する役割を担い,印章としての役割も認められており,花押を用いることによって遺言者の同一性及び真意の確保が妨げられるとはいえない,として,遺言として有効であるとの判断をしました。
これに対し,最高裁判所は,我が国では,印章による押印に代えて花押を書くことによって文書を完成させるという慣行や法意識があるとはいえないとして,押印の要件を満たさないので,遺言として無効であるとの判断をしました。
4 判決の理解と遺言作成に関する注意点遺言は,遺言者の最後の意思の表れであり,なるべくその意思を重視する必要がある反面で,遺言が効力を生じるときには,遺言者が既にこの世にいないため,本人に真意を確かめる術がないため,形式を重視して本人の意思を探らざるを得ないということがあります。
上記の2つの判決は,そのような緊張関係にある2つの要請の中で,いずれも,最高裁判所と高等裁判所の判断が異なった事案です。また,両判決の判断は,いずれも遺言の効力を否定したものでありながら,その判断の方向性は異なっています。
平成27年11月20日最高裁判決は,一義的でない斜線を引くという行為について遺言者の意思を忖度して遺言の撤回を認め,他方,平成28年6月3日最高裁判決は,方式の厳格性を重視して遺言者の真意を推測すること自体を避けて遺言を無効としました。
この問題がいかに難しく,予測困難であるかが分かります。遺言を作るに当たって,公正証書遺言と比較して自筆で自由に作成できる自筆証書遺言ですが,方式が厳格であり,安易に作成すると,法的に有効なものとならないリスクもあります。
遺言者は,その意思を守ってもらうためには,きちんとした方式を守らなければいけません。したがって,遺言を作ると決められたときには,専門家である弁護士に,一度,ご相談されることを強くお勧め致します。
弁護士法人愛知総合法律事務所では,遺言に関する相談も,初回無料です。是非,お気軽にご相談を頂ければ幸いです。
名古屋丸の内本部事務所 弁護士 檀浦 康仁