預貯金は遺産分割の対象になるか?
2017年02月03日
弁護士 水野 憲幸
早いもので、2017年に入って1か月がたちました。今回の相続ブログでは、平成28年12月19日の最高裁判所決定(以下、「平成28年決定」とします。)について、かいつまんでお話したいと思います。 この決定について、ニュースなどでご覧になった方は多いと思います。「預貯金が遺産部分割の対象になるかについて、最高裁判所の判例が変更された。」という記事を見て、その影響について心配に思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。 これまで、預貯金については、相続人間で遺産分割をしなくても、相続の開始と同時に分割され、各相続人が法定相続分にしたがって預貯金を取得する、とされてきました(昭和29年4月8日最高裁判所第一小法廷判決、平成16年4月20日最高裁判所第三小法廷判決)。これに対し、平成28年決定は、「共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。」という判断を示しました。 さて、以上の内容を見て、疑問に思われることはないでしょうか。特に、平成28年決定の前に遺産分割に参加した経験をお持ちの方は、自分の経験とは違うと思われるかもしれません。 多くの金融機関は、遺産分割前に各相続人が自分の法定相続分に相当する額の預貯金の払い戻しを求めても、簡単にはこれに応じてくれないことが通常でした。遺言がない場合には、相続人全員の実印での押印のある遺産分割協議書と、印鑑証明書がなければ、払い戻しに応じてはくれないことがほとんどでした。また、これまでの判例も、相続人全員の合意により預貯金を遺産分割に含めることは禁止しておらず、家庭裁判所の調停の実務でも、一般的には預貯金を遺産分割の対象に含めるという取扱いがされてきました。このような現実から、平成28年決定の前であっても、預貯金は遺産分割の対象に含まれると思っておられた方が多いのではないかと思います。そのような意味では、この決定は一般的な感覚や銀行などでの実際上の取扱いにあわせたということができるかもしれません。 他方、この決定により、金融機関は、遺産分割協議がまとまるまでは相続人への払い戻しに応じる必要がないと主張する根拠ができたということができます。しかし、遺産分割協議ができていなくても、葬儀費用や相続税の支払いをしなければならない場合があります。そのような場合に、相続人の手持ちの資金が十分でないと、その支払に苦労することが考えられます。このような場合に備え、遺言があれば相続人同士の争いを防止できるだけでなく、預貯金の引き出しがスムーズにできます。その際に、自筆の遺言だと、金融機関から遺言の有効性に疑問が呈されることがありますので、公正証書遺言の作成をおすすめします。当事務所では、遺産分割や遺言の作成のご依頼も数多くお受けしておりますので、一度ご相談いただければと思います。
弁護士 水野 憲幸