犯罪被害
1 はじめに
皆様が日常生活を過ごす中で、テレビのニュースなどで多くの事件を見聞きすることがあるかと思いますが、ほとんどの方々は、犯罪被害とは無縁の生活を送っていると思います。
しかし、残念ながら、社会生活を営む上では、いつ、誰が犯罪に巻き込まれてしまうのかは分からず、あるとき、突然、自分や家族が犯罪に巻き込まれてしまうという可能性はゼロではありません。
本稿では、犯罪被害に遭われてしまった方々のために、刑事事件では犯罪被害者としてどのように関わっていくことになるのか、万が一、犯罪被害者になってしまった場合にはどうすればよいのかなどといったことについて触れていきたいと思います。
2 犯罪被害者になってしまうケースとは?
犯罪被害者というと、イメージするのは、他人から恨みを持たれるなどして、何等かの被害に遭ってしまうといったものかもしれません。
しかし、それ以外にも、例えば、交通事故で相手方の不注意によりけがをしてしまった、痴漢被害に遭ってしまった、通り魔的にひったくり被害に遭ってしまったなど、あるとき突然、何らかの犯罪の被害者となってしまうこともあります。
また、会社の経営者の方であれば、従業員が横領に手を染めてしまう、経営する店舗で万引き被害に遭ってしまうなどといったことも考えられます。
3 犯罪被害者となってしまったらどうなるのか?
3-1 捜査段階
犯罪が発生した場合、まず、警察が捜査をすることがほとんどですが、警察は、被害者から話を聞かなければ、事件の全容が分かりません。
したがって、警察は、被害者から最低でも1回、業務上横領事件など複雑な事件であれば、何回も時間をかけて事情聴取を行い、供述調書という書類を作成します。
また、警察は、その後、事件を検察庁に送致して、検察官が事件を起訴するか不起訴にするかを決定するのですが、警察と検察庁は別の組織であり、被害者の供述が犯罪を立証する上で重要な事件では、検察官も被害者から事情聴取を行い、供述調書を作成します。
被害者の供述が重要視される事件とは、例えば、痴漢や性犯罪など防犯カメラ等の客観証拠が少ない事件が挙げられます。
3-2 公判段階
事件が起訴されて裁判になった場合、被告人が事件を争わなければ、供述調書が裁判に証拠として提出されることになるので、被害者が裁判に出廷する必要は基本的にはありません。
しかし、被告人が、事実を否認するなど争っている場合、供述調書が裁判の場に証拠として提出できなくなり、被害者本人から直接話を聞く証人尋問が実施されることがあります。
証人尋問では、一定の要件を充たしていれば、別室で待機し、法廷とビデオリンクさせて尋問を受けたり、法廷で被告人との間に遮へいを立てて尋問を受けたりといった措置が可能ですが、要件を充たさなければ、法廷の証言台で、検察官、弁護人、裁判官からそれぞれ質問を受けることになります。
4 損害賠償請求の方法について
刑事事件は、あくまで、被告人が有罪か無罪か、有罪の場合にどのような刑罰を科すべきかを決定するものであり、被害者に対して、損害賠償を払うべきかどうか、賠償額がいくらになるのかといったことは判断しません(罰金という判決は、お金を被害者ではなく、国庫に納めるという罪です。)。
したがって、被害者は、原則として、被告人に損害賠償請求をするには、刑事事件とは別に民事訴訟を提起するなど別の手続を経る必要があります。
もっとも、例外として、故意に人を死亡させる犯罪や強制性交等罪など、一定の犯罪については、損害賠償命令制度というものが存在します。
この制度は、被害者が、新たに民事訴訟を提起する必要なく、刑事事件の判決後に、同じ裁判体で、引き続き、損害賠償を被告人に支払わせるべきかどうか、支払わせるとして賠償額はいくらかといったことを決定してもらえます。
この制度を利用する場合、4回以内の期日で決定を下すこととなっており、民事訴訟を提起するよりも早期に解決できることが多いです。
5 検察審査会への申立制度
ある事件を起訴するか不起訴にするかといったことは、検察官が決定する権限を有しています。
しかし、事件の被害者や告訴人などであり、不起訴処分に不服がある場合には、検察審査会に不服申し立てを行うことができます。
検察審査会は、法曹資格者等を除いた一般人で構成された合議体であり、申立があった場合には、検察審査会が、「不起訴相当」、「不起訴不当」、「起訴相当」のいずれかの議決をします。
「不起訴不当」又は「起訴相当」の議決がなされた場合には、検察官は、再度捜査を行い、起訴か不起訴の判断を行います。
「起訴相当」の議決がなされ、再度の捜査の結果、もう一度検察官が不起訴処分とした場合、検察審査会が2度目の審査を行い、2度目の審査でも「起訴すべき旨の議決」がなされた場合には、強制的に事件が起訴されます。
6 被害者代理人弁護士としての弁護活動
6-1 被疑者・被告人側からの示談交渉の対応
事件が発生した場合、被疑者・被告人側から、示談や被害弁償に関する交渉を持ち掛けられることが多いです。
そのようなときに、いきなり、相手方の弁護士から連絡が来て、示談の提案をされても、示談に応ずるべきかどうか、金額は妥当か、示談に応じた場合にどのようなメリット・デメリットがあるのかなどといったことはよく分からないことが多いと思います。
そのような被害者の方のために、交渉の窓口に立って、示談の内容をしっかりと吟味しながら、被害者の方にとって最善の結果になるように交渉をさせていただきます。
6-2 捜査状況の説明、事情聴取に当たってのアドバイス
警察や検察は、被害者からの事情聴取以外にも様々な捜査を行っており、捜査の秘密といった観点から、被害者には一切情報が伝えられず、今どのような状況なのか被害者が全く分からないといったケースがめずらしくありません。
そのようなときに、弁護士から、捜査の見込みや考えられる状況などを丁寧に説明させていただき、場合によっては、弁護士から捜査機関に対して、捜査状況の照会をして、被害者の方が不安にならないように致します。
また、事情聴取をされるとなった場合に、事情聴取に当たっての心構えなどアドバイスさせていただいたり、体調不良などの場合には、被害者の方に代わって捜査機関に日程調整をさせていただいたりと被害者の方の負担を取り除く活動をさせていただきます。
6-3 告訴の代理
企業における横領や詐欺事件などでは、まず警察や検察に告訴を行い、そこから捜査が始まるといったケースが多くみられます。
しかし、告訴をする場合には、告訴事実(犯罪事実)を特定し、告訴事実を立証する一定の証拠を集めた上でなければ、なかなか受け付けてもらえません。
したがって、告訴をするに当たって、告訴状の作成、証拠の収集などを代理人弁護士として行わせていただきます。
6-4 被害者参加代理人としての弁護活動
殺人罪や強制性交等罪、過失運転致死罪など一定の犯罪については、被害者等(被害者本人やその配偶者、親や子など)は、被害者参加人として、刑事事件の裁判に参加できると定められています。
被害者参加人は、被告人質問をしたり、量刑に関する意見を述べたりすることができますが、被告人質問には刑事訴訟法上のルールがあり、また、量刑に関する意見というのも、何をどのように言えばいいのか分からないと思います。
そのようなときに、被害者参加人の代理人として、裁判に参加し、被害者等の方のご意向に沿った訴訟活動をさせていただきます。
6-5 被害者参加以外の公判での補助
刑事裁判では、被害者参加以外にも証人尋問や被害者等による心情の意見陳述などがあります。
そのような様々な裁判での対応方法、関与の仕方について、状況に応じて、被害者の方のご意向に沿ったアドバイスをさせていただきます。
6-6 損害賠償請求に当たっての弁護活動
刑事事件とは別に損害賠償を相手に求める場合には、損害賠償命令制度の申立を行ったり、民事訴訟を提起したりするなど、民事事件に関しても、代理人として十分な弁護活動を行わせていただきます。
7 おわりに
犯罪被害者となってしまった場合、犯罪被害を受けたことのみでも大変なショックを受けてしまうにもかかわらず、さらに、捜査機関からの捜査協力要請で大きな負担を被ったり、精神的な辛さを感じてしまったりすることも多くあると思います。
そのようなときは、まず、弊所弁護士へご相談いただければと思います。
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