離婚協議書とは
離婚の際に夫婦間で決めた約束事を書面にした契約書です。離婚協議書を作成するタイミングは、離婚届提出前・提出後のどちらでも可能ですが、離婚届提出前に作成するのが望ましいです。これは、離婚届提出後だと、相手方が離婚協議書の作成を嫌がることがあるためです。 離婚協議書は夫婦のみで作成しても大丈夫です。また、弁護士などに任せたり、作成したものを弁護士にチェックしてもらうこともできます。
離婚協議書を公正証書化する場合は、公証役場で作成します。公正証書にしない場合には、相手方と面談や郵送で取り交わすことになります。 その他に、メールやLINEで文面を送って、相手方の了承をもらえば法的にも有効です。 ただし、その場合には相手方の了承をもらったメールやLINEは保存しておく必要があります。
離婚すること・財産分与・慰謝料・年金分割・清算条項・親権・養育費・面会交流などがよく約束されますが、 内容が違法であるなどを除き、約束できる内容に法的な決まりはありません。
離婚協議書を作成しておけば、もし元夫婦の一方が、離婚協議書の内容を守らず、裁判で争いになった時に、作成した離婚協議書を証拠として提出できます。
また、離婚協議書を公正証書にしておけば、違反があったとき、裁判を起こさずに、強制執行をすることができます。
離婚協議書は、書面の形で作成することが多いですが、メッセージアプリやメールなどでの電子締結もできます。 口頭で決めたことも法的には効力がありますが、証拠として録音をしておく必要があります。
離婚協議書は、離婚した後にも相手方に義務を負わせるものです。 そのため、後から離婚協議書の内容について争いにならないよう、また離婚協議書が無効なものにならないようにしておく必要があります。
「離婚した後に改めて相手方と話し合うことが難しいと思う」、「作成した離婚協議書の内容が法的効力を持っているか不安だ」という方は一度、弊所までご相談いただければと思います。
離婚協議書を作成するために準備しておく事
①夫婦間でしっかりと話し合うことが大切です。
離婚協議書の内容を夫婦の一方が勝手に決めることはできません。夫婦の合意があって初めて離婚協議書という契約書になります。
例えば、離婚を急ぎ、早期に解決しようとして、離婚協議書の内容をいい加減なものにしてしまった結果、後になって揉めるなどのトラブルのリスクがあります。 しっかりと話し合うことがまず初めにすることでしょう。
どうしても合意が得られず、離婚協議が成立しない場合は、調停や訴訟などの裁判所の手続を利用することが考えられます。また、なかなか離婚協議書の内容が決まらないからといって、先に離婚届を提出してしまわないように注意が必要です。夫婦でなくなった後に相手が話し合いに応じてくれるとは限らないからです。 法律の専門家である弁護士などを介して決めていくのも一つの手です。
②夫婦で合意が成り立ったら、離婚協議書を書面などの形にしていきます。
夫婦間での約束事を記載して、合意したことを表明するためにも夫婦の署名・押印をします。認印の押印で問題ありません。書面などの形にする理由は、合意の内容を証拠とするためです。
関連記事:養育費と面会交流の決め方
関連記事:離婚前に別居するメリット・デメリット
公正証書まで作成する場合
①離婚協議書の①と同じです。話し合いをしましょう。
②離婚協議書の②とほとんど同じです。お近くの公証役場に離婚協議書の公正証書を作成する旨連絡しましょう。 離婚協議書の案文を作成して、公証役場へ提出します。
③ 作成日当日に公証役場へ行きます。公証役場で作成します。署名・押印が必要で、実印の押印が必要です。あわせて夫婦二人の印鑑登録証明書も必要になるため、事前に用意するのがよいでしょう。
離婚協議書の効力
離婚協議書は夫婦間での離婚に関する合意を書面の形で残すもので、一種の契約書です。そのため、離婚協議書に夫婦それぞれの署名、押印があれば、双方は離婚協議書の内容に従う義務があります。
離婚協議書を取り交わす際には、自分が守れない約束をしないことや夫婦に認識の違いが出ない文言にすることなどが重要になってきます。
しかし、離婚協議書にこのような効力がある一方で離婚協議書だけでは認められていない効力もあります。以下では、離婚協議書の限界について説明します。
離婚協議書の限界①:強制的に実現はできないこと
裁判所などの国家機関を使って強制執行などにより約束したことを強制的に実現させる効力を「執行力」といいます。例えば、養育費を支払わない場合に、給料を差し押さえるのは「執行力」の効果です。
離婚協議書には、「執行力」はありません。そのため、一方が離婚協議書の内容に違反した場合、他方としては離婚協議書の内容どおり行うよう求めることはできますが、直ちに給料を差し押さえたりすることはできません。
離婚協議書の内容を強制的に実現させるためには、離婚協議書と同じ内容の公正証書を作ったり、調停や訴訟などの裁判手続を提起したりする必要があります。
離婚協議書の限界②:当事者のみを拘束すること
離婚協議書に従う義務があるのは、その離婚協議書に合意した者(通常は夫婦)だけになります。そのため、それ以外の人には離婚協議書に従う義務がありません。
例えば、離婚協議書を作成するにあたり、夫側の両親に養育費支払いの保証人になってもらったりすることがありますが、その場合には、夫側の両親にも離婚協議書に当事者として参加してもらう(署名、押印してもらう)必要があります。
離婚協議書の作り方 誰が作る?
離婚協議書は、ご自身で作るか、弁護士などに作成を依頼するかのどちらかです。
弁護士などに任せる場合のメリット
- 弁護士は紛争処理を仕事にしているため将来紛争が生じないよう、生じるとしても問題が少なくなるような文言にできる
- 弁護士によっては離婚交渉のアドバイスもしてくれる(「●のように説明したら、相手方も納得してくれると思うよ」など)
- 離婚協議書作成の時間を節約することができる
という点にあります。
デメリットとしては、当然ですが費用がかかってしまいます。
離婚協議書を作るタイミング
離婚協議書は、離婚届の提出前に作ることが一般的です。離婚届を提出した後ですと、離婚を希望していた一方が急に「離婚協議書に縛られたくない」と言い出し、離婚協議書の取り交わしが難しくなる場合があるためです。
また、離婚協議書は、予め離婚についての話し合いがされていて大まかな合意ができたときに作成することが一般的です。
離婚の話し合いをする前に先に希望する離婚条件をまとめたものを離婚協議書として作成して、相手方に見せることもありますが、 相手方から希望条件などが出されて、都度修正していくと条項同士で矛盾が生じたり、結局大まかな合意ができてから作成したほうが無駄な作業が少なくて済むというのが理由です。
離婚協議書を作る際のひな形とサンプル
離婚協議書を作る際に使って頂けるようひな形とサンプルをご用意いたしました。ひな形は以下からダウンロードして頂けます。
(あくまでもひな形になりますので、最終的に弁護士に見ていただくことをお勧め致します。)
離婚協議書の書き方サンプル集
離婚協議書は、お互いが合意する内容をまとめたもののため、相手方にしてもらいたい事項(又はしてもらいたくない事項)を記載することになります。
一般に離婚協議書に入れる項目としては、①親権者、②養育費、③面会交流、④財産分与、⑤慰謝料、⑥年金分割です。他に不動産や住宅ローンなどの項目もあります。
親権者の項目について書き方(サンプル) |
---|
「当事者間の子●●(平成●年●月●日生,(以下「丙」という。))の親権者を乙と定める。」 親権者についての解説 |
養育費の項目についての例(サンプル) |
「甲は,乙に対し,丙の養育費として,令和●年●月から同人が20歳に達する日の属する月までの間,1か月●万円を支払うこととし,これを毎月末日限り,●銀行●支店の乙名義の普通預金口座(口座番号●●)に振り込む方法により支払う。振込手数料は甲の負担とする。」 (子ども2人の場合のサンプル) 「甲は,乙に対し,丙らの養育費として,令和●年●月から同人らがそれぞれ20歳に達する日の属する月までの間,一人につき1か月●万円を支払うこととし,これを毎月末日限り,●銀行●支店の乙名義の普通預金口座(口座番号●●)に振り込む方法により支払う。振込手数料は甲の負担とする。」 養育費についての解説 |
面会交流の項目についての例(サンプル) |
「乙は,甲に対し,甲が丙と月に●回面会することを認め,その具体的な日時,場所,方法等については,子の福祉に配慮して,当事者間で協議してこれを定める。」 面会交流についての解説 |
財産分与の項目についての例(サンプル) |
「甲は,乙に対し,本件離婚による財産分与として,金●●万円の支払義務があることを認め,これを令和●年●月●日限り,●銀行●支店の乙名義の普通預金口座(口座番号●●)に振り込む方法により支払う。振込手数料は,甲の負担とする。」 財産分与についての解説 |
不動産の項目についての例(サンプル) |
「1 乙は,甲に対し,本件離婚に伴う財産分与として,別紙物件目録記載の不動産を分与する。/2 乙は,甲に対し,前項の不動産について,前項の財産分与を原因とする所有権移転登記手続をする。登記費用は甲の負担とする。」 |
住宅ローンの項目についての例(サンプル) |
「甲は,第●項の不動産について,令和●年●月●日までに売却し,乙に対し,売却代金から不動産仲介手数料等の経費を控除して当該不動産の購入に際し,●●銀行から甲乙名義で借入れた債務を弁済した残額のうち,2分の1に相当する金員を支払う。」 「甲と乙は,第●項の不動産の購入に際し,●●銀行から乙名義で借り入れた残債務について,甲において全額負担し,責任持って返済することを確認する。」 |
慰謝料の項目についての例(サンプル) |
「甲は,乙に対し,本件離婚による慰謝料として,金●●万円の支払義務があることを認め,これを令和●年●月●日限り,●銀行●支店の乙名義の普通預金口座(口座番号●●)に振り込む方法により支払う。振込手数料は,甲の負担とする。」 慰謝料なしの場合(請求・支払をしない場合、最後に下記のような精算条項を記入することで、トラブルを回避できます。) 「甲と乙は,本件離婚に関し,以上をもって一切解決したものとし,本協議条項に定めるほかに,今後,互いに財産分与,慰謝料等名目のいかんを問わず,金銭その他一切の請求をしない。」 慰謝料についての解説 |
年金分割についての例(サンプル) |
「甲と乙との間の別紙年金分割のための情報通知書記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合を,0.5と定める。」 年金分割についての解説 |
ただし、「●を入れる必要がある」「●を入れたらダメ」などのルールはありません。
例えば、上記以外にも、連絡先の変更があった場合に連絡することや、再婚した場合には連絡することなどを入れる場合もあります。 離婚協議書を考える際には、離婚した際に結婚生活中の精算をどうするのか、離婚後に相手方に求めたいことはあるか、という点から考えてみればよいかもしれません。
離婚協議書の作り方についてよくあるご質問
離婚協議書を作る時は手書きでもいいですか?
離婚協議書は手書きで作成頂いても構いません。法律上の有効性は手書きでもパソコンでも変わりません。 ただし、ボールペンの種類によっては、改ざんや熱や消しゴムで消えてしまうリスクがあるため 油性の消せないボールペン等をご利用頂ければと思います。 また手書きの場合でも詳細を書く必要性から、読みにくくなる事もあるためパソコンでの作成が推奨されています。
離婚協議書を作成しないとどうなる?
離婚協議書を作成しないと、離婚後の問題について具体的な合意がないため、紛争の可能性が高まります。特に親権や財産分割、養育費などについて明確な取り決めがない場合、後々に互いの理解が食い違い、深刻なトラブルにつながる可能性があります。
離婚協議書はいつから効力ありますか?
離婚協議書は、双方が署名と押印をした時点で基本的には効力を持ちます。 離婚協議書が法的な拘束力を持つためには、公正証書にて離婚協議書を作成することをおすすめいたします。公証人による認証がなされることで、協議書は法的な強制力を持つことになります。
離婚後に協議書の作成はできますか?
離婚後でも協議書を作成することは可能です。離婚後に協議書を作成する場合でも、その内容について双方が合意する必要がありますが、音信不通になったり、従前の約束を反故される場合もございます。離婚後の紛争を避けるためにも、離婚前に協議書を作成し、すべての事項について明確にすることをおすすめいたします。
離婚協議書が無効になる場合
第一に、当事者の意思がない場合です。例えば、無理やり署名捺印させたり、お互いに無理だと考えつつ合意したり(慰謝料100億円など)した場合には、事後的に無効とされることがあります。
第二に、法律に反する場合です。例えば、日本は離婚後の共同親権(元夫と元妻が2人とも親権者となること)を認めていないため、親権者を元夫と元妻の共同と定めても無効になります。ただし、法律よりも当事者間の合意が優先する場合もありますので、弁護士に相談するのが良いと思います。
有効だが法的効力がない場合
第一に、法律上の「身分」に関する合意は当事者間では有効ですが、法的拘束力はないとされています。「身分」とは、戸籍で定められている地位と言えば分かりやすいかもしれません。例えば、離婚後のお子様の姓を父親のままにすることや、再婚しないことなどは当事者間では有効ですが、それに違反してもお子様の姓を父親に戻したり、再婚を無効にすることはできません。
第二に、養育費を請求しないことの合意です。これは様々な見解がありますが、養育費はお子様の権利であって、親であっても「養育費を請求しない権利」をお子様に代わって放棄することはできないと考えられています。そのため、養育費を請求しないことが定められていても、後から請求されてしまうことがありえます。
もっとも、以上の場合でも文言を工夫したり、他の条項を入れたりすることで、法的効力がある条項にすることや相手方を事実上拘束する条項にすることができる場合もありますので、弁護士に相談してみるのが良いと思います。
書面の形にする必要があるのか
離婚協議書というと書面の形をイメージしてしまいます。もっとも、書面は合意があったことを証明するもののため、書面である必要はありません。メールやLINEの中で合意ができていたり、直接話し合いをして合意ができていたり(口約束)しても離婚協議としては有効です。もっとも、メールはデータが消えてしまったり、口約束の場合は録音などの証拠がないと証明できなかったりするため、離婚協議書という書面を残しておくことが確実といえます。
公正証書と離婚協議書について
公正証書の効力
公正証書には、金銭を支払う内容については強制執行することができる効力があります。つまり、養育費や財産分与など相手方に金銭を支払わせる内容であれば、不払いがあったときに相手方の給料を差し押さえたり、預金口座を差し押さえることができます。
ただし、金銭以外の約束(面会交流や自宅からの退去など)については公正証書を基に強制執行することができず、改めて裁判や調停を起こす必要があります。また、金銭支払いの約束であっても、金額が特定されている必要があります。例えば、「大学の授業料を支払う」だけですと、金額が特定されていないため、強制執行することができません。
また、公正証書に年金分割について定められていると、公正証書をもってお一人で年金分割の手続ができます。年金分割は、原則として当事者二人がそろって年金事務所に行って手続をしなければならないですが、公正証書があれば相手方と予定を合わせる必要がなくなります。
公正証書のデメリット
公正証書作成には費用がかかります。費用は、公正証書に記載された財産分与や養育費の額によって変わってきます。なお、お住まいの市町村によっては公正証書作成にかかる手数料を市町村が負担してくれる制度がある場合もあります。一度、役所で聞いてみてもいいと思います。
また、公正証書作成のためには当事者が二人で公証役場へ行く必要があります(弁護士に依頼すれば弁護士が行ってくれます)が、公証役場によっては忙しく予約が取れるのが1か月先となる場合もあります。公正証書を作成する予定となっている場合には、行ける距離の公証役場数件に電話して、混雑状況を確認することをお勧めします。
公正証書のその他のメリット
公正証書のメリットとしては前述の効力の他に、①原則20年間、公証役場が原本を保管しているため紛失しても再発行ができること、②公証人が当事者の意向を確認して作成するため事後的に無効となる可能性が低いこと、③公証人が離婚協議書の内容をチェックしてくれるので解釈の争いのある文言は修正してくれること、などがあげられます。
公正証書を作成する場合には、上記のメリットとデメリットを比較してご検討されるのが良いと思います。
離婚協議書に違反した場合
違反された側の対応方法
公正証書で作成された金銭支払いの約束であれば、違反者の給料や預金口座を差し押さえることができますが、それ以外であれば裁判や調停を提起して相手方に約束どおりの履行を求めることになります。
もっとも、裁判や調停には時間もかかりますし、弁護士に依頼した場合には弁護士費用もかかってしまいます。そのため、違反された場合に備えて、保証人をつけておく、違反した場合の賠償金を予め決めておくなど離婚協議書作成の段階で工夫しておくことが望ましいです。
違反した側の対応
基本的に約束した以上は、離婚協議書のとおり実行しなければなりません。 例外的に事情の変更を理由に離婚協議書の内容を変更するよう求めることができます。
例えば、勤務先から解雇されてしまったため養育費を支払えなくなった、子供が成長して面会交流を自分の意思で拒否するようになったなどです。もっとも、離婚協議書作成時に予測されることがあれば、先にそのことを踏まえた条項(「転職した場合には養育費を別途協議する」など)を入れておくことが望ましいです。